特別展「映画をデザインするー小津安二郎と市川崑の美学」が閉幕しました
2022年もまもなく終わろうとしています。師走の慌ただしい時期、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
これまで一緒に語られる機会の少なかった小津安二郎監督、市川崑監督を〈デザイン〉の視点からご紹介する特別展「映画をデザインするー小津安二郎と市川崑の美学」は、12月12日(小津監督の誕生日&命日)をもって盛況のうちに終了しました。多くの方にご来館いただきまして、ありがとうございました。
会期終盤の12月3日(土)には、小津監督のカラー作品『お早よう』(1959)の上映後、グラフィックデザイナー/映画批評家の鈴木一誌(ひとし)さんにご登壇いただき、「小津映画とデザイン」と題したトークイベントを実施しました。
鈴木さんは小津監督を《デザイナー》と位置づけ、小津監督がデザインした日本映画監督協会のロゴマーク、装幀や文字=レタリングの数々、監督が好んで画面の中に作り出した〈正方形〉の形象などから、《デザイナー》としての小津監督を分析してくださいました。
さらに、1930年代の松竹蒲田で宣伝物のデザインを担い、松竹のモダニズムに大きく貢献したグラフィックデザイナー、河野鷹思(こうのたかし)を取り上げ、その生い立ちから舞台美術や風刺漫画などの様々なキャリア、手がけた数多くの映画ポスターや広告を、画像とともにご紹介いただきました。河野は、サイレント時代の小津監督とも密に仕事をしており、『お嬢さん』(1930)や『淑女と髭』(1931)ではポスターを、『生れてはみたけれど』(1932)では映画美術を手がけています。日本における黎明期のグラフィックデザインを代表する存在であるにもかかわらず、いまだ十分に知られていない河野の作品を、特徴や魅力とともに知る非常に貴重な機会となりました。
トーク後半では、時に映画の文法に反するとも言われる、小津映画を小津映画たらしめる特徴 ― 画面の中に現れる〈正方形〉、会話する人物同士をひとりずつ映し出すカットバック(切り返し)の手法、無人の風景やモノを映すエンプティ・ショットなど ― を通して、小津監督がいかに時間的な持続性を断ち切ろうとしていたかを、丁寧に説明してくださいました。小津映画特有の手法は様々な場面で指摘されていますが、監督の意図と合わせての考察は非常に説得力があり、私自身、大きく頷きながら聞き入っていました。
トーク終了後には、常連のお客様から、「これまで監督がどういう意図で撮っているのか、あまり考えたことがなかったのでとても面白かった。明日は『彼岸花』を見に来るので、今日のお話を思い出しながら見てみようと思う」という、嬉しいお声がけもいただきました。
デザイナーである鈴木一誌さんのお話は、〈デザイン〉をテーマにした展覧会を締めくくるのにふさわしい、貴重なものとなりました。鈴木さん、本当にありがとうございました。
来年2023年は、小津監督生誕120年の記念の年にあたります。全国各地で様々な催しが予定されています。https://www.cinemaclassics.jp/news/3025/
来年も引き続き、小津監督の作品を是非お楽しみください。