活動弁士・澤登翠さんによる『結婚哲学』『淑女と髯』活弁上映

当館の活弁上映で毎年ご登壇いただいている活動弁士・澤登翠さんは、今年弁士デビューから50年を迎えました。50周年記念と銘打ち、現在、日本独自の映画文化であり貴重な伝統話芸でもある活弁公演を例年以上に全国各地で行っている澤登さん。大変お忙しいなか、今年も当館の活弁上映にご登壇くださいました。

開催中の特別展「映画をデザインするー小津安二郎と市川崑の美学」に合わせて、小津監督戦前期のサイレント作品『淑女と髯』(1931年)に加え、小津監督と市川監督も大好きだったというドイツ出身の映画監督、エルンスト・ルビッチ監督の『結婚哲学』(1924年)という、邦画・洋画の傑作が揃った豪華なプログラムでの開催です。

朝早く鎌倉入りされた澤登さん。ひと息つく間もなく、リハーサルに突入です。マイクの音量とBGMのバランスを確認し、スクリーンが見やすいような角度に演台を動かすなど本番に向けて調整されました。

『結婚哲学』は、チャップリンの『巴里の女性』(1923年)とともに、類まれな心理描写で映画表現の成熟に決定的な影響を与えたと言われる作品で、5人のメインキャラクターによる恋のさや当てが輪舞の構造で展開していきます。澤登さんは声色を的確に使い分けながら、それぞれの性格や感情を生き生きと表現し、人物の動きと活弁の見事なシンクロぶりに、終始クスクスとした笑いが絶えない上映となりました。また『淑女と髯』は、 岡田時彦の二枚目ぶりとコメディアンとしての素質を最大限に生かした作品です。ヒロイン二人の対照性や当時の松竹のモダンな雰囲気がよく伝わり、サイレント期の小津作品を心地良く楽しんでいただけたのではないでしょうか。

上映作品結婚哲学
『結婚哲学』
『淑女と髯』岡田時彦と川崎弘子
上映作品淑女と髯
『淑女と髯』岡田時彦と伊達里子

当館の活弁上映では、作品の特徴や製作の背景、監督、出演者について澤登さんに解説いただく時間を設けています。今回も上映後にミニトークを行いました。

『結婚哲学』では、ユーモアやエロティシズムが入り混じった「ソフィスティケイティッド・コメディ」「ルビッチ・タッチ」と言われる所以について、小道具の使い方や勘違いが生み出す巧みなシチュエーションの視点から解説していただきました。また『淑女と髯』では、岡田時彦ら主要キャストのプロフィールに加えて、小津作品にしては珍しいきわどい諷刺、ルビッチの演出法を参考にしている部分についてお話しいただきました。

最後に、「活動弁士・澤登翠の50年」と題して、マツダ映画社からご提供いただいた写真とともに、澤登さんの50年の歩みを振り返りました。澤登さんは1972年、弁士・松田春翠の元に弟子入りして以来、伝統話芸としての活弁の伝承に尽力されてきました。海外公演も次々とこなし、それらの活動が評価されて数々の賞も受賞されています。50年という節目に感慨を感じつつも、まだまだこれからも頑張りますと元気に宣言されていました。

当日は、澤登さんに同行されていた22歳の若手弁士、尾田直虎(おだ・たかとら)さんもご紹介することができ、芸が受け継がれていくことの素晴らしさを、会場の皆さまと分かち合うことができました。

50周年記念公演もまだ続いていくとのこと、お身体に気をつけながら走り抜けてください。スタッフ一同、澤登翠さんの今後の更なるご活躍をお祈り申し上げます。