夏のシネマセレクションが終了しました

終戦前後のこの時期になると、各地の映画館で「戦争」や「平和」をテーマにした特集上映が行われます。 当館でも毎年、様々な切り口から「戦争と平和」に関連する映画上映を行ってきましたが、今回は「戦争の記憶」に焦点を当て、「戦争は終わらない~兵士たちの記憶と戦後」と題して2本のドキュメンタリー映画をご紹介しました。

1本目は2005年の公開時にロングランヒットを記録し、その後も各地で上映会が開催されている『蟻の兵隊』(池谷薫監督)です。

中国・山西省で終戦を迎えた奥村和一さんは、上官が中国側と交わした密約のために中国に残留させられることとなり、その後に続く中国国内の内戦では国民軍の側に立って共産軍と戦いました。

そこでも多くの命が失われたうえに、終戦から10年近く経ってようやく日本に帰還してみると、自分たちは自ら志願して中国に残ったことにされており、本来であれば受けられるはずの補償の対象外になっていたのです。

このような「日本軍山西残留問題」を扱った本作は、奥村さんら元残留兵が国を相手に裁判で闘う姿を描いただけでなく、奥村さんがかつて「少年兵教育」の名のもとに中国人を殺した場所を訪れ、自らの加害性にも向き合っていく姿が描かれます。

弱った身体を抱え、それでも凛とした佇まいで戦争がもたらした様々な理不尽さに立ち向かっていく奥村さんの姿に、改めて戦争というものの忌まわしさを呼び起こされる作品です。

監督が10分ほどのビデオメッセージを送ってくださったので、本編終了後に皆さまにご覧いただきました。

カメラの前の監督から奥村さんのその後について紹介があり、撮影時の様々なエピソード(とりわけ映画の核となる部分の背景は聞きごたえがありました)、そして奥村さんたちの「人間としての尊厳をかけた闘い」は現在にも通じるものがあるというお話で、映画の本質に触れる大変貴重な内容でした。

私自身、何度聞いてもグッときてしまうものがありましたが、スクリーンの向こう側の監督に拍手送ってくださる方もいて、「この映画を届けたい、伝えたい」という池谷監督の想いが皆さんに確かに伝わったのだと思います。

2本目は1987年に公開され、日本のドキュメンタリー映画史に残る衝撃的な大ヒット作である『ゆきゆきて、神軍』(原一男監督)です。

「戦争」のテーマさえも吹き飛ばしてしまうような主人公・奥崎謙三さんの破天荒なキャラクター、暴力も辞さない反骨精神は今の時代の観客にどう受け止められるのか、少しの不安もありましたが、極限状態を経験した人間の戦後の姿から戦争の狂気が浮かび上がってくる作品として、この機会にご覧いただきたいと思いました。

昨年にはリバイバル公開を果たした本作ですが、今回は上映素材が「英語字幕付き」であったため、外国人のお客様にもご覧いただくことができました。

近年これまで以上に旺盛に活動されている原一男監督は、水俣病を扱った新作『水俣曼荼羅』の公開を控え、最新作も撮影中で大変お忙しいと伺っていたのですが、急遽「鎌倉に向かいます!」と連絡をいただき、13日(金)午前の回の上映後、急遽アフタートークを開催することになりました。

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販売中の書籍「『ゆきゆきて、神軍』製作ノート」を片手に登場し、開口一番「この本は映画より面白いといっても過言ではない」と言い放った原監督は、奥崎さんとの出会いから撮影の間、いかに大変だったか、お二人の間にいかに愛憎や確執が渦巻いていたかを巧みな話術で語ってくださいました。 グイグイと私たちを引き込みつつ、「時間がないから全部話せない、だからこれを是非読んでくださいね」を繰り返し、その結果、上映後には本が飛ぶように売れました。ドキュメンタリー作家としての熱量、撮影対象に向かっていく強さとともにその関係性の中で悩まれる人間的な部分、そして高度なプロモーション能力を発揮されたトークとなりました。

緊急事態宣言下での上映となった今年の「夏のシネマセレクション」、猛暑に続いて今度は雨が続き、天候には恵まれませんでしたが、それでも多くの方にお越しいただくことができました。

今年は市役所や、鎌倉駅近くの「地下道ギャラリー」でも本特集を紹介していただきました。

1958年、全国の自治体としては初めて「平和都市宣言」を採択した鎌倉という土地で、戦争の記憶を忘れずに平和を求めていく姿勢を、今後も映画を通じて続けていく所存です。(胡桃)