飄々と、堂々と~『ニシノユキヒコの恋と冒険』上映後の井口奈己監督トーク報告~
5月21日(日)、鎌倉が登場する映画『ニシノユキヒコの恋と冒険』上映後、井口奈己監督と撮影・整音を担当された鈴木昭彦キャメラマンにご登壇いただき、映画にまつわるあれこれをお話しいただく「映画談話室」を開催しました。
今回のトークは上映が近くなって急遽決まったもので、広報が十分に行き渡らない点も心配されましたが、当日は老若男女様々な世代のお客様が駆けつけてくださり、温かい雰囲気の中のトークとなりました。
映画監督というと、大きい声で周囲に指示を出しながらチームをまとめる、良くも悪くも権威的なイメージを持ってしまいがちですが、井口監督は女性で小柄ということもあり、従来の映画監督イメージからはかけ離れた方でした。なんとなく、神出鬼没でカメレオンのように周囲に溶け込みながらさりげなく色んなものを観察してそうな…。
撮影現場って、監督次第できっと雰囲気がまったく違うんでしょうね。
主役の竹野内豊さんには当初オファーしていなかったのですが、他のキャストの方の相談で出向いた所属事務所で、「うちには竹野内豊もいますので」と逆にお声がかかり、ぴったりなキャスティングに結びついたことや、成海璃子さんはまだ小さい頃に竹野内さんと共演経験があったので、親戚のおじさんがいきなり恋愛対象になって慣れるまでに少し時間がかかったこと、竹野内さんは監督がすぐ近くにいるのに尾野真千子さんにばかり質問していたこと、七尾旅人さんに主題歌をオファーしたところ、「ボクは暗い歌が多いので」と乗り気ではなかったように見えたのに、ギターをポロロンと弾き出してそれがエンディングの音楽になったこと、出演した女優さんたちの結婚報告が相次いだこと(最近では阿川佐和子さんが話題になりましたね)など、井口監督がさりげない会話のように披露してくれる映画の裏話はどれもとっても面白く、会場は終始笑いが絶えませんでした。
撮影のとき、なかなかカットの声をかけないことで知られる井口監督ですが、そんな時一番大変なのは俳優とキャメラマンです(たぶん)。
俳優はカットがかかるまでとにかく演技を続けなければならないので、脚本にないアドリブで対応しなければならないし(でもだからこそ井口作品では俳優同士の濃密な雰囲気が作り上げられるのでしょう)、キャメラマンはそんな予期せぬ役者の動きもすべてフレームの中に収めなければなりません。
井口監督の横で言葉少なに控えめに座り、しかし監督が言いあぐねているとサラリと助け舟を出す鈴木キャメラマンはとても頼もしく、お二人の信頼関係が舞台の上でも垣間見えたような気がしました。
きっととても柔軟な方なんだろうなぁ、監督の指示にも応えるし、逆に指示がなくてもベストな判断で監督の信頼を得ているのだろう、そんなことを思いながらお話を聞いていた私でした。
なお、井口組では鈴木キャメラマンが整音も担当するという非常に珍しいシステムを採用しており、鈴木キャメラマンによるロケハンで、音の環境にも配慮されたロケ地が選ばれるとのこと。そんな音にまつわるお話が聞けたのも貴重な機会でした。
井口監督はとても飄々としている印象でしたが、トークの冒頭で、この作品では川上弘美さんの原作の最も重要なポイントを切り落としていて、でもそれは映画として考えた時に決断しなければいけなかったと話されていて、決断力も凄い方だ!ということで、「飄々と、堂々と」というタイトルにしてみました。
次回作はSFを狙っているとのこと!?意外なお答え、でも楽しみですね。
井口監督、鈴木キャメラマン、楽しい時間をありがとうございました。(胡桃)