企画展「ヨーロッパ映画紀行」本日をもって終了しました! (小笠原正勝さんによるギャラリートークの報告も兼ねて)

少しずつ暖かくなり、春の息吹が感じられるこの頃ですね。
記念館の庭園では梅が咲き、玉縄桜が咲き、今はハナモモが見頃を迎えています。

本日3月12日をもって、約2ヶ月弱の間開催してきました企画展「ヨーロッパ映画紀行」が終了しました。
川喜多夫妻が設立した「東和」の映画作品や、東和の宣伝部で活躍した野口久光氏によるデザイン、アラン・ドロンやカトリーヌ・ドヌーヴなど人気を博した名優たちの作品、1950年代に始まり、ATGやエキプ・ド・シネマ、ミニシアター文化といった形で見られてきたアート映画の歴史など、ポスターを通してこれまでに私たち日本人がどんなヨーロッパ映画を見てきたかを辿る内容でしたが、皆さまにとって懐かしい作品との再会をお楽しみにいただけたのでしたら、嬉しく思います。

会期中はいくつかのイベントを実施し、こちらの記念館だよりでもご報告してまいりましたが、会期後半には新しい取り組みにも挑戦しましたので、ご報告いたします。

当館で展示する資料は、映画ポスターが中心です。ポスターを見ながら、どんな映画だったかを思い出したり、当時のことを語り合いながら、映画の魅力を感じるひとときを過ごしていただく、というのは勿論素晴らしい楽しみ方なのですが、あくまで映画の「内容」に関わる限りにおいては、実際に作品を見ることがベストであるわけで、ポスターはあくまで補助的な資料に過ぎません。そうなるとどうしても、上映できる映画には限界があるからポスターの展示でそれを補う位置づけになってしまい、ポスターそれ自体の魅力が伝えられていないのではないか、というジレンマをこれまで持ち続けてきました。
しかし私たち学芸員は、映画作品や映画の歴史について解説することはできても、映画というジャンルを超えてポスターというメディアについてお伝えしたり、グラフィックデザインや印刷技術の発展については、まだまだ勉強が足りないという実情もありました。

そこで、ポスターそのものの楽しみ方を皆さまにもっと知っていただくため、グラフィックデザイナーの小笠原正勝さんをゲストにお迎えして、2月25日(土)にギャラリートーク「ヨーロッパ映画ポスター紀行」を実施しました。

小笠原さんは、1960年代後半から90年代にかけて映画・演劇のポスターを数多く手掛けており、今回の企画展でも『旅芸人の記録』『ベルリン・天使の詩』などいくつも展示している方です。

野口久光さんの少し後の世代にあたる小笠原さんは、野口さんのポスターの魅力を語ると同時に、手で描くイラストから写真を使うようになるポスター制作の技術的な変化や、白黒の写真に人工着色する手法についても話してくださいました。
また、今回展示しているのはヨーロッパ映画のポスターだけだったので、当日は小笠原さんが手掛けた日本映画のポスターの縮小版やラフ画などもお持ちいただき、この機会でなくてはわからないお話をたくさんお聞きできました。
特に、日本映画と外国映画のポスター制作の手順や関わり方の違いや、どのようにイメージを作り上げていくかなど、デザイナーならではの具体的なお話をお聞きできたのはとても興味深かったです。

小笠原さんの仕事は、ATGから岩波ホールのエキプ・ド・シネマ、川喜多和子さんが副社長を務めたフランス映画社の作品まで、日本で上映されたアート映画の歴史をそのままなぞるに等しく、芸術的な映画にして斬新なポスターありと言うべき見応えのあるポスターの数々は、今後さらに評価されていくことでしょう。

デザイナーの方から直接ポスターについてのお話を聞くことで、映画作品とは別に、ポスター自体の魅力を味わっていただけたのではないかと思います。
参加された20名ほどの皆さんがとても熱心で、小笠原さんにもとても喜んでいただきました。

これからも、それぞれの企画展に合ったイベントを実現させていきたいと思いますので、是非お楽しみにしていてください。

次回は、鎌倉と映画の関係を、わかりやすい地図や楽しいイラストレーションでご紹介する特別展「鎌倉映画地図」が3月17日(金)から始まります。
春の鎌倉は散策にも最適です。是非当館で展覧会を見て、映画の足跡を探しに鎌倉の街に出かけてみてください。お待ちしています!(胡桃)