ドイツ映画に浸る1週間
「映画が世界を結ぶ」を理念に外国映画の日本への普及、日本映画の海外への紹介に尽力された川喜多夫妻の活動を継承すべく、今年度から実施している「かまくら世界映画週間」。
5月の「現代中国篇」に続き、10月最後の週には6日間にわたって「ドイツ篇」としてドイツ映画における新旧の代表作4本を上映しました。
1930年代はじめ、トーキー初期の代表作である『嘆きの天使』『未完成交響楽』と、戦後ドイツ映画の新しい流れを切り開いたニュー・ジャーマン・シネマの監督たちの代表作『ブリキの太鼓』と『ローザ・ルクセンブルク』という、作品数は少ないですがドイツ映画の厚みを感じられるラインナップです。
会期中には、2回にわたりトークイベントも実施しました。
今回の特集に多大なるご協力を賜った湘南日独協会のメンバーとして、また湘南アカデミアで講師を務め、鎌倉におけるドイツ文化交流に貢献をされている、ヨーロッパ近現代史研究家の西澤英男さんには、27日(火)の『未完成交響楽』上映後、旧和辻邸の庭園で映画の背景となる時代についてお話しいただきました。
普段のトークでは映画について伺うことが多いので、1930年代初めのウィーンを歴史的な側面から見たトークはとても新鮮でしたし、ヒトラーによる支配、そして第二次世界大戦へと突入していく前、貴族社会の最後の煌きが残っていた時代の映画だったとの解説によって、『未完成交響楽』という作品を一層味わうことができたのではないでしょうか。
夕方になると風がひんやりとしてきましたが、鎌倉の町を見下ろしながら気持ちの良い時間を過ごしていただけました。
意外にも寅さんシリーズの大ファンだという西澤先生からは、ウィーンが舞台のシリーズ41作目『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』をお薦めいただきました。当時のウィーンの市長さんも顔を出しているそうですよ。未見の方は注目です!
30日(金)には、ドイツのフランクフルトで毎年開催されている日本映画専門の映画祭「ニッポン・コネクション」から、東京国際映画祭のために来日中のディレクター、マリオン・クロムファスさんをお迎えしました。
日本映画のみで成り立っている映画祭は世界でも類を見ません。1999年に当時大学生だったマリオンさんと同級生によって日本映画の上映イベントとして企画されたのが、どんどん膨らんで今の形になったとのこと。クラシックの名画もさることながら、この映画祭の魅力はなんといっても若手の監督を発掘し、インディペンデント映画の上映に力を入れている点にあります。100本以上の日本映画が一同に会する機会は、日本国内でもそうあるものではありません。なので「ニッポン・コネクション」は今では「世界最大級の日本映画のショーケース」と称されるほどに。
当館は主に国内外のクラシック映画を上映しているので、もちろん場所ごとの特徴や役割は大切にするべきですが、新しい映画、若手監督に対する意欲の高さには頭が下がりました。そんなマリオンさんの口から発せられた「最近の日本映画は製作本数は増えているが、ひとつひとつのクオリティはどうなんだろうか…」というコメントには重いものがありました。
「ニッポン・コネクション」はまた、中身だけでなく、映画祭のビジュアル・デザインにも大変力を入れています。映画祭の公式サイトを見ていただくとわかるように、ピンクをシンボルカラーとしてポップでお洒落な映画祭のイメージを作り上げることに成功しています。それによって、元々日本映画に興味のなかった人たちを取り込み、また映画祭と併せて日本の文化を体験できるイベントも数多く実施することで、日本文化を発信する場ともなっており、日独文化交流への貢献が評価されて、マリオンさんは2013年に日本から外務大臣表彰を受賞されました。
ドイツ映画の名作を久しぶりに堪能し、現代の日独文化交流の架け橋となって活躍されている方のお話を聞く機会を得て、第二回目の「かまくら世界映画週間」も充実した1週間となりました。
川喜多夫妻が輸入・配給された『未完成交響楽』の上映は当館とのゆかりも深く、またお客様からも大変好評でしたので、いつの日かまた上映する機会を見つけられればと思っています。
11月は各地でドイツ映画が上映される機会も多いので、是非色々な作品をご覧ください。
そして次回の「かまくら世界映画週間」もお楽しみに!(胡桃)