『長屋紳士録』上映後の映画談話室
月に1回上映後に皆さんと作品について語り合う映画談話室、『長屋紳士録』の後は、大場正敏が水先案内人を担当いたしました。
英国映画協会(BFI)が10年に1度選出している「史上最高の映画トップ10」、その映画監督が選出する部門で2012年には『市民ケーン』や『8 1/2』、『2001年宇宙の旅』をおさえて堂々の一位に選ばれた『東京物語』。今や世界の“OZU”と呼ばれる存在ですが、小津安二郎監督が国際的に注目されるようになったのは、実は1950年代に英国映画協会から“サザーランド賞”が贈られた時以降なのです。
この賞はロンドンのナショナル・フィルム・シアターで1年間に上映された様々な世界の名画の中から選出されるもので、日本映画の国際的な評価としては、黒澤、溝口などについで小津の名が、この時点でようやく世界に知れ渡りました。1972年、アメリカの映画評論家ドナルド・リチーさんによる“OZU”が刊行され、2年後には日本でその翻訳書となる『小津安二郎の美学』が刊行されました。出版パーティーの席では、ゲストとして招待された笠智衆さんが、お祝いとして『長屋紳士録』の中で歌った“のぞきからくり”の一節を、その時テーブルにあったステンレスの灰皿とフォーク(らしきもの)を取り上げて歌いだし、会場にいた皆さんが驚かれ、拍手喝采となったそうです。当時、その場に居合わせたのが本日の水先案内人でしたので、祝辞の言葉よりもここはひとつと、朗々と歌いだした笠さんの様子を、談話室ではお話させていただきました。
熊本出身で浄土真宗のお寺の生まれの笠さんは、声の響きが心地よく、『長屋紳士録』や『お茶漬の味』など、小津監督も作中で幾度か笠さんに歌声を披露させています。スクリーンで見ていても、ついつい一緒に手拍子を合わせたくなりますね。(B.B.)