映画談話室『浮雲』

企画展「写真家 早田雄二の世界~華麗なる映画スターたち~」も残すところ1日となりました。
映画上映の最後の作品は、日本映画の名作『浮雲』(成瀬巳喜男監督、1955年)です。
さすが日本を代表する作品と言われるだけあり、チケットは明日28日の分まで完売御礼となっています。

そんなラストスパートの週末、27日(土)14時の回終了後、映画談話室を開催しました。
映画談話室は、当館スタッフが進行役を務め、見終わったばかりの作品について皆さんで語り合おうという趣旨のもと、月に1度行っています。
誰もが知っている名作ではありますが、「名作」のひと言で片付けてしまうのではなく、その日その場所で共に映画を見た人たちが、今見たばかりの作品について感想を述べ合うのもまた、映画鑑賞の醍醐味のひとつではないでしょうか。

2時間を超える上映時間にも関わらず、半分くらいのお客様が残ってくださいました。
はじめに、原作者の林芙美子さんと成瀬監督の映画化作品について、主演の高峰秀子さんの当時の状況、また『浮雲』の同時代映画人からの評価について簡単にお話しし、本作を理解する上で2つのポイントをこちらから投げかけました。
それは「見る人によって異なる理解、評価ができる作品であること」と、「戦後という時代背景」です。
1つ目の点は、誰もが同じように理解し同じように楽しめる作品と違い、本作は見る人の年代や性別、置かれている状況によって作品の感じ方が異なるのではないか、という前提のもと、今日初めてご覧になった方、昔に見て久しぶりに鑑賞された方、男性の方、女性の方、など違った立場の方々に感想をお聞きしました。私見ですが、名作と呼ばれる映画は、見る者にその感じ方が委ねられるもの、また見るたびに違った感じ方ができる作品ではないでしょうか。

また2つ目は、敗戦から戦後と日本人の価値観が180度変わった時代を背景とする本作において、男女の腐れ縁という普遍的なテーマながらも、やはり戦中~戦後という時代背景が大きく影響しているのではないか、という観点から、お客様にとっての戦後の記憶について伺いました。

最後に当館についてのご意見をお聞きしたところ、定年退職後当館に通ってほとんどすべての日本映画をご覧になっているというお客様から、近所にこのような施設があるのは鎌倉の誇りだという大変嬉しいお言葉を頂戴し、その言葉に対して場内が拍手に包まれる一幕もありました。私たちスタッフにとってこの言葉以上の喜びはありません。
さらに、口頭でアンケートをとったところ、談話室にご参加いただいたお客様の半分以上が鎌倉市にお住まいの方であることがわかり、この土地にこの記念館が着実に根付いていることを実感することができました。
談話室終了後にも、見たい映画のご要望、当館に対するご意見など、個々のお客様から貴重なコメントを沢山いただき、スタッフにとっても大変有難い機会となりました。

これからも月に一度開催する映画談話室を通して、我々スタッフとお客様たちの、またお客様同士の交流の場を作っていきたいと思います。
小さな記念館ではありますが、鎌倉近隣の方々にとって映画の世界に触れる素敵な場となれるよう、益々頑張っていきたいと改めて身が引き締まる思いがしました。(胡桃)