女優・司葉子さんが語る映画界あれこれ

5月16日午後2時より、今回の企画展の目玉の1つである、司葉子さんのトークイベントが開催されました。

朝からあいにくの雨模様でしたが、沢山のお客様にご来館いただいたおかげか、トークが始まる頃には晴れ間がのぞきました。

トークは、川喜多夫妻とヨーロッパ各国を回られたエピソードから始まりました。
1959年、東宝で売り出し中だった司さんは、大映の若尾文子さんや松竹の小山明子さん、日活の芦川いづみさんらと共に、川喜多夫妻を世話役にドイツやユーゴスラビア、スイスなどを訪問し、日本映画を紹介されたのでした。

続いて、大阪の毎日放送に勤めていた時分に、偶然週刊誌のグラビアに載ったことから映画出演の打診を受けたこと、家族の大反対がありながらも1本だけの約束で、笠置シヅ子さんの家に寝泊りしながら撮影をしたという映画デビュー時のお話から、朝、撮影所の結髪部に勢揃いしている原節子さん、高峰秀子さん、山口淑子さんら大女優たちに挨拶して回るのが大変だったこと、高峰さんが朝魚屋さんで買ってきたメザシを緊張しながら食べたこと、スレンダーな体型に似合わず丈夫な体で、東宝社内の運動会で大活躍されたことなど、貴重なエピソードが次々と飛び出しました。

映画会社同士が結んでいた五社協定のため、東宝の専属女優だった司さんが他社の作品に出演するのは当時大変難しかったのですが、小津安二郎監督に見初められて1960年に『秋日和』に出演します。
小津監督と初めて会ったパーティーで監督に色目を使われたというエピソードでは、客席にいらしたプロデューサーの山内静夫さんにも証言していただき、楽しい掛け合いが繰り広げられました。

成瀬巳喜男監督の遺作となった『乱れ雲』では、十和田湖でのロケの最終日前夜、翌日も撮影があるからと慰労会でお酒を断った司さんに、監督が一言「葉ちゃん、飲んでもいいよ」と声をかけられたそうです。不思議に思ったという司さんが翌朝、メイクもばっちりでいざラストシーンに臨んだところ、なんと後姿だけのショットだったのでした。「怖い」という印象を持たれがちだった成瀬監督のおちゃめな一面が見えたエピソードでした。

当日の午前中には、司さんの代表作として知られる中村登監督の大長編『紀ノ川』を上映しました。
本作で司さんは数々の映画賞を総なめにされましたが、女の一生を演じることへの覚悟、かつて山田五十鈴さんに教わったという、本気で相手に向かっていく姿勢など、それまで積み重ねてこられたものがすべて発揮された、素晴らしい作品です。
役者が良い演技をすると、大興奮して「カァァット!」と叫び床を転がってしまうという中村監督の物真似まで披露しながら、そんな役者をのせることに長けた監督のおかげで、司さんの演技もどんどん良くなっていったとお話しくださいました。

素敵なピンク色のスーツからすらっとした足をお見せになり、相変わらずお美しい司葉子さんですが、「アットホームだから何でもしゃべっちゃうわ」と笑い声を上げながらとても気さくにお話しされる姿がとてもチャーミングで、初めて耳にする貴重な面白いお話の連続に、場内は常に笑いに包まれていました。

トーク終了後も、お客様から贈られた似顔絵に喜ばれたり、気軽にサインに応じてくださるなど、司さんの魅力を堪能させていただきました。(胡桃)