渡部幻さん×小野里徹さんトークイベント

2月19日(土)、企画展《崩壊と覚醒の70sアメリカ映画》の関連イベントとして、渡部幻さん(映画批評・編集者)と小野里徹さん(ポスターコレクター)にお越しいただき、「アメリカ映画 陰謀と告発の70年代エンターテインメント」と題したトークイベントを開催しました。

「キネマ旬報」で連載中の〈ぼくのアメリカ映画時評〉では、最新のアメリカ映画について、監督・俳優のフィルモグラフィや映画史の系譜、そして史実を踏まえながら、広い見識と見事な語り口で毎回評を執筆されている渡部幻さん。「60、70、80、90、ゼロ年代、アメリカ映画100シリーズ」(芸術新聞社)の企画・編集・解説なども手がけられ、本展を準備する上でも様々な指針を与えてくださいました。

※本書は当館でも販売中です。

一方、前回のトークに引き続き、イベントの進行役を務めてくださった小野里徹さん。今回のお題目に関連する作品──『パララックス・ビュー』(74)、『カンバセーション‥‥盗聴‥』(74)、『大統領の陰謀』(76)、『合衆国最後の日』(77)、『ブラック・サンデー』(77)、『カプリコン・1』(77)のオリジナルポスターもご提供くださり、展示室の“陰謀映画”コーナーが鮮やかで見応えのあるものになりました。

『カンバセーション‥‥盗聴‥』のUS版ポスター(小野里氏所蔵)
『大統領の陰謀』のUS版ポスター(小野里氏所蔵)

数年前、「70年代アメリカ映画はうちにポスターが充実して揃っているよ」「70年代は現代のアメリカ社会に繋がるテーマが出揃った時代で、半世紀が経った今こそ光を当てるべき」と、本展の企画をプッシュしてくださったのも、実はこのお二方でした。博覧強記な二人から、優れた70年代アメリカ映画の数々を教わり、その際にとりわけ何度も名前があがったのがニューヨーク出身の映画作家アラン・J・パクラ、そして彼の《陰謀3部作》と呼ばれている『コールガール』(71)、『パララックス・ビュー』(74)、『大統領の陰謀』(76)でした。

『パララックス・ビュー』のUS版ポスター(小野里氏所蔵)

今回のトークイベントでも、この3部作の話題からスタートしました。作品のあらすじ、パクラ監督による役者の魅力の引き出し方、ケネディ大統領暗殺事件やウォーターゲート事件などの時代背景、『ゴッドファーザー』(3部作)の深い陰影の画調で知られる撮影監督ゴードン・ウィリスが手がけた斬新な撮影技法など、ポリティカル・サスペンスの魅力と技芸を余すことなく語っていただきました。パクラ監督とゴードン・ウィリスによるコンビは、ロケーション選びにも卓越したセンスを発揮しており、舞台として登場するニューヨークやシアトル、ワシントンなど大都市の街並みは、スリリングな物語の展開と相俟って、いたるところに危険が潜んでいるように感じられました(今回のイベントでは作品の場面スチルを会場のスクリーンに投射してご紹介しました)。

70年代後半には、様々な陰謀論をもとにした娯楽性のあるドラマやアクション映画(『ネットワーク』『ブラック・サンデー』『カプリコン・1』etc.)も作られました。エンターテインメントの要素が強まっても、当時の社会状況を示すリアリティやアメリカ社会に蔓延していた空気がしっかり作品に反映されており、こうした題材は当時も観客の目を引いたことでしょう。二人の解説により、政治的背景や実際に起きた事件がどのように映画に内包されていたのか、詳しく知ることが出来ました。

『カプリコン・1』のオーストラリア版ポスター(小野里氏所蔵)

今回ご紹介いただいた作品群には、70年代アメリカ映画を代表する監督や出演者たちが携わっていました。テーマの出発点は《陰謀と告発》でしたが、彼らの魅力を語るうちに話は様々な文脈へと派生し、広がりをもっていきました。最後まで楽しい時間をありがとうございました。

企画展は3月13日まで開催しています。展示室内にあるお二人の解説コメントもぜひご覧ください。(B.B.)