企画展「映画祭のすゝめ~ぐるり映画ポスターの旅」/「かまくら世界映画週間<韓国篇>」閉幕しました。
9月12日(日)をもちまして、企画展「映画祭のすゝめ~ぐるり映画ポスターの旅」は閉幕となりました。お越しいただきました皆さま、ありがとうございました。
最終週は、「かまくら世界映画週間<韓国篇>」も開催し、大盛況の一週間となりました。この企画は、世界各国の映画を通して、その土地の社会や文化に対する理解を深めていこうとするものです。今回は、近年ますます世界から注目を集める韓国映画『はちどり』(2018年)、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、『オアシス』(2002年)の3作品を上映しました。
9月11日(土)は、『はちどり』上映後に映画研究者の崔盛旭(チェ・ソンウク)さんをゲストにお招きし、「韓国の家族・社会・歴史から紐解く“女”と“男”の生きづらさ」という題目でお話しいただきました。崔さんを当館にお招きするのは3度目です。毎回大好評を得ており、今回のトークイベント付き上映も、チケット発売早々に完売してしまった、とても注目度の高いイベントとなりました。
『はちどり』は若手女性監督キム・ボラの長編デビュー作です。2018年釜山国際映画祭での初上映を皮切りに、ベルリン国際映画祭をはじめ国内外の映画祭で50を超える賞を受賞しました。韓国では単館公開規模の低予算映画ながら、観客動員15万人弱という異例の大ヒットとなりました。トークイベントでは、男尊女卑の思想、韓国フェミニズムの動き、家庭内暴力の問題、韓国の軍事態勢と文民政府、その間に行われた民主化運動など、映画で描かれた主題や時代背景などを、崔さんの実体験も含めてお話しいただきました。
この映画の主人公ウニは14歳の女の子です。一見、家族という最も小さな社会で起こった出来事を描いた、ウニの成長物語のように感じます。しかしキム・ボラ監督は、ウニの目を通して、韓国が国家として抱える根深い問題を露呈しています。
ウニの家族は、この頃の韓国社会に典型的にみられた家族だそうです。男尊女卑の意識が強く、一家の中で男性は優遇され、女性は控えめにしなくてはならない存在です。進学や社会に出る機会も奪われてしまいます。2016年に韓国で発売されベストセラーとなった小説「82年生まれ、キム・ジヨン」でも描かれている、我慢を強いられる中、声を上げようとする女性たちの姿は、多くの共感を呼びました。
また、映画の舞台となった1994年は、80年代後半に起こった民主化運動によって、過去の「軍事政権による権威主義の韓国社会」から「市民が主体になる新しい韓国」へと移り変わっていった時期です。92年に金泳三(キム・ヨンサム)による文民政府がスタートし、新しい社会として変化を主張しましたが、30年間続いた軍事政権時代に作られた韓国社会の構造的な問題や後遺症は残ったままでした。急激に経済発展をする一方で、漢江(ハンガン)にかかる聖水(ソンス)大橋や三豊(サンプン)百貨店の崩壊事故など、軍事政権時代の腐敗した政経癒着がもたらした人災によって多くの命が失われました。その後、1997年に金融危機が起こり、韓国経済は破綻してしまいます。この映画では、社会の最小単位である<家族>のあいだで起こった小さな暴力を描くことによって、<国家>が引き起こした大きな暴力を描いていたのです。
映画の上映後のトークイベントだったため、閉館まで1時間程度しかなく、「もっとお話を伺いたかった!」というお客様の声が多数上がった、大盛況のイベントとなりました。貴重なお話をしていただきました崔さん、本当にありがとうございました。
(TK)