「次世代シネマセレクション」振り返り

3月13日(金)から15日(日)までの三日間、次世代シネマセレクションを開催いたしました。この特集では、これからの時代を担う気鋭の若手監督の作品をご紹介しています。2025年度は、カンヌ国際映画祭の監督週間に日本人史上最年少で選出された団塚唯我監督の『見はらし世代』を上映しました。

*国内では左側がメインビジュアルですが、カンヌ国際映画祭の監督週間では右側がメインビジュアルとして使用されました。

団塚監督は映画美学校のフィクションコースで学び、同校の修了作品である『愛をたむけるよ』が、なら国際映画祭、下北沢映画祭などで入選を果たします。2022年には、文化庁が主催する、次世代を担う長編映画監督の発掘と育成を目的とした「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に選出され、短編作品『遠くへいきたいわ』を制作、第36回高崎映画祭に招待されます。そして昨年制作・公開された『見はらし世代』は団塚監督の長編デビュー作品で、第78回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品されました。当時26歳の団塚監督は日本人史上最年少での参加となりました。また、将来性のある新人映画監督に贈られる新藤兼人賞で金賞を受賞し、キネマ旬報ベストテンでも第10位にランクインするなど、本作は2025年、国内外で注目された日本映画の一つです。

14日(土)の上映後には団塚監督をお招きし、アフタートークを開催しました。アフタートークでは、作品のテーマや制作過程、影響を受けた作品など、貴重なお話をたくさん伺うことが出来ました。

団塚監督は本作を含むご自身の全作品のシナリオを執筆されています。アフタートークでは、本作のシナリオの制作過程についても詳しくお話しいただきました。団塚監督が本作のシナリオを書き始めたのは23歳くらいの頃で、まずはご自身の最も身近な存在である家族について、あるいはご自身の経験をもとに書き始めていったそうです。例えば、本作の主人公・蓮は胡蝶蘭を運ぶ運転手として働いていますが、これは団塚監督が実際にやったことのあるアルバイトで、その時に感じたことがシナリオにも反映されているとのこと。ご自身の経験だけでドラマを作り上げることに難しさを感じた時、生まれ育った街・東京と家族、ふたつの軸でシナリオを構成することを思いついたそうです。東京の景色が抗いようもなく大きく変わっていくように、家族の関係性も気づけば変わっていく、一見直接的な影響がないように見える両者を重ね合わせて書き進めていくと、家族と街がまるで呼応するような構成のシナリオが出来上がったそうです。

主人公:高野蓮(演:黒崎煌代さん)

今回の次世代シネマセレクションでは、影響を受けた作品として団塚監督に選んでいただいた作品も併せて上映いたしました。団塚監督は『見はらし世代』を制作するにあたって影響を受けた作品として、『トウキョウソナタ』(黒沢清監督)、『父ありき』、『東京物語』(小津安二郎監督)、『フレンチアルプスで起きたこと』(リューベン・オストルンド監督)、『奇跡』(カール・テオドア・ドライヤー監督)の5作品を選ばれました。家族にまつわる様々なドラマを描いたこれらの5作品の中から今回は『奇跡』を上映いたしました。

『奇跡』はキリスト教の信仰を軸とした家族の物語です。団塚監督は、特に全編を通して丁寧に描かれている「祈り」に大きな影響を受けており、宗教上の行為であるかどうかに関わらず、我々の生活の地続きにある感情としての「祈り」を描きたかったと話されていました。『見はらし世代』における家族と母・由美子の“再会”という「奇跡」のレファレンスを問われた際には、この作品を答えておられるそうです。

前述しました通り、本特集はこれからの時代を担う若手の映画監督をご紹介する次世代シネマセレクションです。アフタートークの最後に、もしかしたら会場におられるかもしれない未来の映画監督に向けてのエールをお願いいたしました。団塚監督は映画に本格的に興味を持たれたのが19歳頃で、それ以前は映画中心の人生を歩んできたわけでなく、様々なことを経験し、その経験が映画にも活かされているそうです。映画も、いわゆる名作や芸術性の高い作品ばかりではなく、様々な作品から学び、影響を受けているので、映画でもそれ以外のことでも、あまり範囲を決めてしまわずにたくさん面白い経験をしてほしいとおっしゃっていました。

アフタートークでは他にも、タイトルの意味やキャスティング、演技のディレクション、撮影現場でのやりとりなどをお伺いし、キャストやスタッフの方々への信頼や現場の和やかな様子が伝わるお話などもたくさん話していただきました。一つ一つの質問に丁寧にお答えいただき、ありがとうございました。

アフタートーク付きの上映回は幅広い世代のお客様がお越しくださり、満席となりました。アフタートーク後にはQ&Aとフォトセッション、サイン会を行い、皆様それぞれに監督との会話を楽しまれていました。Q&Aでもサイン会でも、団塚監督の次回作が話題となり、構想は既にあるとのお答えでした。次回作も楽しみですね。

『見はらし世代』は2025年5月のカンヌ国際映画祭監督週間での上映を皮切りに、上海国際映画祭、ニューホライズン国際映画祭、グアナファト国際映画祭、メルボルン国際映画祭、サン・セバスティアン国際映画祭、そして今年4月には、フィルム・アット・リンカーン・センターとニューヨーク近代美術館が主催するNew Directors/New films(第55回)で上映されるなど、国や文化の違いを超えた広がりを見せています。『見はらし世代』が今後も、世界中の映画ファンに届きますようお祈り申し上げます。

団塚監督、ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。