映写機の音とともにフィルム上映を味わっていただくイベントを開催しました

鎌倉市川喜多映画記念館ではこの12月、開館以来15年ぶりに映像資料室のスクリーンとスピーカーを交換しました。

まっさらなスクリーンで最初に見ていただく映画は何がよいだろう…?と考えていたところ、コミュニティシネマセンターより共催事業のご提案をいただき、12月13日(土)・14日(日)に「フィルム映写ワークショップ&フィルム上映会in鎌倉」と題したイベントを実施しました。

当館も会員になっている「コミュニティシネマセンター」は、地域の映画・映像文化を担う組織のネットワークで、上映普及活動や映像教育を通して映像作品の多様性と豊かな映画環境を確保し、芸術文化の振興および地域社会の発展に寄与することを目的としています。

その活動の一つに「Fシネマ・プロジェクト」があります。上映のデジタル化が急速に進み、多くの映画館や劇場からフィルム映写機がなくなっているなかで、フィルムで撮られた映画をフィルムで上映し続ける環境を整え、フィルムの魅力を伝えるというものです。

Fシネマ・プロジェクトではその活動の一環として、デジタル上映が主流となりフィルム映写の機会がなくなっているなか、現役の映写技師を対象に映写技術を継承するワークショップを行っています。当館には常設のフィルム映写機がありますが、今回は「移動映写」(野外やイベント会場など、映画館ではない場所に映写機を設置して上映する)がテーマということで、映像資料室の後方に大きな映写機を設置しました。

13日は、東北から九州まで、全国から移動映写を学びたい!と集まった現役の映写技師が参加するワークショップです。映写機の設置から調整まで、1日がかりで上映環境を一から作り上げていきます。メイン講師の岩本知明さんは当館でも日頃から映写を担当してくださっていますが、長らく「鈴木映画」という移動映写専門の会社に在籍し、様々な場所で上映を経験してきた百戦錬磨の映写技師でもあります。(昨年の『孤独のグルメ2024大晦日スペシャル』で、塚本晋也監督が鈴木映画の社長を演じていたのを覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。)

岩本さんを中心に3名の映写技師が講師としてバックアップする中、参加者たちはひとつひとつの作業を丁寧に真剣に積み重ねていきます。

そうして設置された映写機がこちらです!

翌14日は、前日のワークショップで設置したイタリア・シネメカニカ社製の映写機で、スタンリー・キューブリック監督の遺作『アイズ ワイド シャット』を上映するイベントを開催しました。午前中には情報資料室にて、映画を鑑賞するお客様を対象に、フィルムに触ったり16㎜映写機で映写を体験するワークショップを行いました。フィルムで映画を観ることはあっても、実際にフィルムに触り映写の仕組みを知る機会はほとんどありません。皆さん目を輝かせながら、時間いっぱいまでフィルム体験を楽しんでくださいました。

上映中も映写機の音が聞こえる旨をあらかじめお伝えしていましたが、チケットは完売、存在感を放つ映写機に、会場の皆様が早くも興奮している様子が伝わってきます。

機械の故障や不具合は起きないか、映写機の音が鑑賞の妨げにならないか、運営側としてはハラハラしながらの上映開始となりましたが、通常より増幅した音響もあいまってすぐに映画の世界に引き込まれ、あっという間の160分でした。

上映後は岩本さんにご登壇いただき、アフタートークを行いました。岩本さんは本作の初公開時に、大々的なお披露目試写会でも映写を担当しており、その時の思い出や移動映写でのエピソードをお話しいただきました。また、フィルムでの鑑賞体験の素晴らしさを伝える「Film座」という独自の上映活動についてもお話しいただき、岩本さんをはじめ映写技師の方々のフィルム映写に対する情熱を知ることができました。

アフタートーク後には、先着順で当館の映写室見学会も行い、盛り沢山のイベントとなりました。帰り際には皆さん口々に、今日の特別な鑑賞体験の感動や、音響の素晴らしさについてスタッフに話してくださいました。当館での上映が日々、映写に精通した頼もしい映写技師の方々によって成り立っていることを実感しました。

今回のコミュニティシネマセンター(Fシネマ・プロジェクト)との共催イベントによって、映画文化を伝えるという当館の活動の輪郭を、より際立たせることができたと思います。関係者の皆様、ご参加してくださった皆様、ありがとうございました。

新年は1月4日(日)から開館し、上映は1月12日(月・祝)から始まります。新しいスクリーンとスピーカーでの新鮮な鑑賞体験を楽しみにしていただけますと幸いです。