旧川喜多邸別邸(旧和辻邸)特別公開「哲学者・和辻哲郎が暮らした田舎家」

当館では5月3日~7日の5日間、庭園内に建つ古民家、旧川喜多邸別邸(旧和辻邸)を特別公開致しました。

1961年に鎌倉に移築後、川喜多夫妻が国内外の映画人をもてなす場として使用したこの家は、開催中の企画展「BOWシリーズの全貌―没後30年 川喜多和子が愛した映画」でも、テオ・アンゲロプロスやビクトル・エリセが訪れ、ヴィム・ヴェンダースが『東京画』で笠智衆のインタビューを撮影した場所として紹介しています。この特別公開では、移築以前に哲学者・和辻哲郎が練馬で自宅として使用していた当時の様子を写真やパネルで展示しました。

和辻哲郎は1938年、大山の麓(現在の秦野市)にあった江戸時代後期の民家を練馬に移築し、1960年に亡くなるまで家族とともにこの家に暮らしました。明治中期から昭和戦前期にかけて、近代数寄者から文化知識人に広まった「田舎家」(古い民家を移築して茶室や住宅として使用)ですが、現存する建物は少なく、旧和辻邸は貴重な歴史的資料ともなっています。近年、田舎家の研究が進む中で、旧和辻邸も実地調査によりその構造的な特徴や移築を手がけた大工棟梁・山田源市の手法が明らかになってきました。そして今回、和辻家のご親族より、当時の暮らしぶりがわかる写真を数多くご提供いただき、建物としての魅力とこの時代の人々の暮らしぶりの両方を味わえる展示となりました。

和辻哲郎は「田舎家の辨」と題した短いエッセイに、大山の麓から移築した経緯を記していますが、そこには、襖の下張りから江戸時代の役所の文書らしきものを見つけ、建物の建築・改修時期を推測していく様子が書かれています。ご親族はその古文書も大切に保管されていました。古文書は旧和辻邸の歴史を語る貴重な資料として、今回一部を展示することができました。

展示作業および5日間の会期中は、友の会サポーターの方々と、来場されたお客様への説明やご案内を行いました。室内にあがって家の作りをじっくり見る機会はあまりないため、和辻哲郎への関心のみならず、建築や民藝に詳しい方も多く来場されました。新緑のこの時期は風通しの良い旧和辻邸で過ごすのに最適です。都会の喧噪から離れ、心地良く吹き抜ける風を感じながら、皆さまがじっくり、時間をかけてご覧になっていた様子がとても印象的でした。最終日は雨が一日中降り続いていたにもかかわらず、貴重な機会だからと遠方から駆けつけてくださったお客様もいらっしゃいました。ご来場くださった皆さま、まことにありがとうございました。

旧和辻邸は普段は遊歩道から外観を眺めていただくのみですが、春・秋の一般公開/特別公開の他、月に1回程度行っているギャラリートークでも展示解説と併せてご案内しています。直近のギャラリートークは5月27日(土)・6月24日(土)14時からの予定です。是非お越しいただけますと幸いです。