次世代シネマセレクション『泣く子はいねぇが』

3月26日(土)〜27日(日)は次世代シネマセクションを開催しました。この特集では、これからの時代を担う気鋭の若手監督の作品をご紹介しています。今年は佐藤快磨(さとうたくま)監督の『泣く子はいねぇが』(2020年)を上映しました。本作は、監督の出身地でもある秋田県の伝統行事「ナマハゲ」に着想を得て作りあげたオリジナルの脚本を映画化したものです。劇場映画デビュー作となる本作は、第68回サンセバスチャン国際映画祭で最優秀撮影賞を受賞しました。

佐藤快磨監督は1989年に秋田県秋田市に生まれました。2014年に撮影された初の長編監督作品『ガンバレとかうるせぇ』では、ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2014で映画ファン賞と観客賞を受賞したほか、第19回釜山国際映画祭のニューカレンツ部門に正式出品されるなど、国内外の様々な映画祭で高く評価されました。また、文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2015」に選ばれ、2016年に『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』を監督したほか、2019年には『歩けない僕らは』などを制作しています。

26日(土)午後の上映後には、佐藤監督をお招きしてアフタートークを開催しました。映画が作られたきっかけや企画として本作に携わっている是枝裕和監督とのエピソードなど、貴重な話をたくさん伺うことができました。

そもそも本作の構想は2014年のぴあフィルムフェスティバルのスカラシップに提出するために書いた脚本が基になっています。秋田県・男鹿半島を舞台に密漁をしているチンピラ3人の物語で、ラストシーンも全く異なるものでした。この脚本には、既に『泣く子はいねぇが』のラストシーンとなった印象的な場面が、中盤のちょっとしたエピソードとして描かれていたそうです。2016年に、分福(是枝裕和監督や西川美和監督を中心とした映像制作会社)の監督助手のエントリーシートに書いた改稿のあらすじが、是枝監督の目に留まったことがきっかけとなり、映画化に向けて大きく動きだしました。

本作のテーマである「父性」についても詳しくお話を伺いました。ご友人の皆さんが結婚し父親になっていく中で、監督は自身に父性があるか自問するようになったそうです。人はいつ父親になるのだろうか、父性はどこから生まれるのか、どの様に父性を獲得するのだろうか。まだ父親になっていない自分だからこそ描けるものがあるはずと考え、作品と向き合ったそうです。映画の舞台となる秋田という土地、幼少の頃に体験したナマハゲの恐怖、父性を獲得することへの想いなど、佐藤監督の等身大の視点から描き出された主人公像は、リアリティに溢れ、観る人の心に深い共感を生みました。

すでに新作にも取り掛かっているとのこと、楽しみですね。

佐藤監督、お忙しい中ご来館いただき本当にありがとうございました。(TK)