井上由一さん×小野里徹さんトークイベント
1月22日(土)、企画展《崩壊と覚醒の70sアメリカ映画》の関連イベントとして、映画ポスターコレクターの井上由一さんと小野里徹さんにお越しいただき、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・70sポスター」と題したトークイベントを開催しました。
映画制作・配給会社に勤務している井上さんは、業務の傍ら、趣味で映画ポスターの収集を続けてきました。海外に赴くときは様々な映画作品の日本版ポスターを持っていき、向こうのコレクターにトレードを提案することで、高額買取以外の方法で貴重な諸外国のオリジナルポスターを手に入れることもあったといいます。そうして自らのコレクションを増やすとともに、各国のディーラー、コレクターとの交流を育み、年月をかけてネットワークを構築していきました。2019年には、自身のコレクションを中心に、各地からの資料協力も含めて『オードリー・ヘップバーン 映画ポスター・コレクション ポスター・アートでめぐる世界のオードリー』を出版、翌年には『スティーブ・マックイーン ヴィンテージ映画ポスター・コレクション ポスター・アートで見る〈キング・オブ・クール〉の肖像』(ともにDU BOOKS)を出版しました。オードリーやマックイーンの世界初の映画ポスター集として、各国の多種多様なポスターが井上さんの手によって紹介されています。
2021年8月には『アメリカン・ニューシネマ 70年代傑作ポスター・コレクション ポスター・アートで見るアメリカの肖像』が刊行され、本企画展を準備するにあたっても大変参考になりました。井上さんは現在、今年3月7日に刊行予定の『スタンリー・キューブリック 映画ポスター・アーカイヴ 宣伝ポスターまでをコントロールした男』を準備中です。ポスター本のために、自分の手元にあるコレクションは“一時の預かりもの”と考えて、なるべく固執せず、別のものが必要になった場合には手放したり、交換したりすることもあるそうです。
一方、“POSTER-MAN”という名前で「映画偏愛家」「映画グッズ収集家」として、これまでにも様々な映画関連イベントに参加してきた小野里さんは、ご自身の気に入った作品の映画ポスターしか収集しないというポリシーを掲げ、偏愛する作品のコレクションと研究を長年続けて来られました。当館では2015年に開催した企画展《戸田奈津子が見てきたハリウッド》にて、国際的に活躍したアートディレクターの石岡瑛子さんが手がけた『地獄の黙示録』のポスターをお借りしたことを契機に、小野里さんのコレクションから、これまでに幾度も資料のご提供をいただいています。ポスターをお借りするだけでなく、各国のポスターの特徴やデザイナーのこと、複製版かどうかの見分け方やポスターに付してあるナンバーの意味など、小野里さんからは映画ポスターにまつわる様々なことを教えていただきました。本企画展でもポスターやレコードなど28点をご提供いただき、展示しています。また今回は『JAWS/ジョーズ』『アリスの恋』『チャイナタウン』の解説文執筆など、企画展全体を通して様々なご協力を賜りました。
このように異なるスタンスで収集を続けているお二人ですが、最初に魅了された映画およびポスターとの出会い、まがい物(公式ではない、紙質の悪い複製品など)をつかまされた失敗談、インターネットのない時代に訪れたポスターショップの店員さんとの交流やネットオークション時代への変遷など、映画ポスター収集の楽しさや醍醐味を語る両者には共通した体験がたくさんありました。損をした苦い思い出も、折れ目のない稀少なポスターを手に入れた歓喜も、コレクターならではの視点で、映画資料に長らく親しんでこられたことが伝わってきます。
普段から映画関連資料に接している私たちスタッフにとっても、コレクター界隈の知られざる世界の出来事は大変興味深く、映画ポスターにまつわる様々な歴史や背景に思いを巡らせることができました。オードリー・ヘプバーンのご子息ルカさんが(前述の)ポスター集をご覧になって大変喜んだというエピソードなど、ポスターブック制作の裏側に関しても興味の尽きない内容が盛りだくさんでした。最後は井上さんと小野里さんが選んだ70年代アメリカ映画ポスターのベスト3を発表し、選定理由やディテールの魅力などを語っていただきました。最後まで楽しい時間をありがとうございました。(B.B.)