『スパイの妻』上映+黒沢清監督トークイベント
7月17日『スパイの妻』上映後に黒沢清監督にご登壇いただき、「世界の観客は映画のどこをどう見るか」と題したトークイベントを開催しました。
本作は、昨年の第77回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞しました。企画展「映画祭のすゝめ ぐるり映画ポスターの旅」では、黒沢監督にご協力いただき、この銀獅子トロフィーを展示しています。昨年9月に現地での開催が実現したヴェネチア映画祭でしたが、コロナ渦にあって、様々な理由から多くの人にとって渡航は容易ではなく、黒沢監督も現地入りを諦めざるを得ない状況でした。オンラインでの授賞式参加ではなかなか実感がわかず、寂しいものがあったと仰っていました。
トークイベントでは、『スパイの妻』に関すること、これまでに参加した国際映画祭に関すること、出演俳優のそれぞれの魅力、映画祭で言葉を交わした海外の映画作家たちとのエピソードなど、話題は多岐にわたりました。黒沢監督の軽妙な語り口と相まって、客席の皆さんはすっかりお話に惹きつけられている様子でした。
本作の舞台は、黒沢監督の生まれ育った神戸ですが、実は神戸以外のロケーションでも撮影をおこなっており、主演の蒼井優さんと高橋一生さんが扮する福原夫妻の住む家の玄関のシーンは、鎌倉にある旧華頂宮邸で撮影されていたことが明かされました。ちょっぴり“鎌倉映画”だったのですね。鑑賞中に気がついたという方も何人かいらしたようで、この話に及んだ際には大きく頷いておられました。
海外の映画祭に行くと、観客だけでなくジャーナリストも「なぜ、あそこの場面はそうなったのか?」と理由をしきりに尋ねてくる傾向があるとのこと。最初は作品がわかりづらくて申し訳ない、悪いことをしたかな、と思っていたものの、しばらくしてこれは「あなたとお話しがしたい」という気持ちの表れで欧米流の独特の言い回しであり、単に「面白かった」で話を終わらせてしまわぬように、作品に対する疑問をぶつけてくるのだと気づいたそうです。
近年では『ダゲレオタイプの女』『旅のおわり世界のはじまり』といった国際共同製作にも積極的に取り組んでいらっしゃる黒沢監督。海外の俳優やスタッフとの撮影中のやり取りでもそうした“違い”を感じることがあるのかもしれません。また講演後、(映画を見るということ・作るということに)それほど根本的な“違い”はないとも語ってくださいました。言葉を越え、国境を越えて伝わるのが、視覚芸術《映画》の真髄であることをあらためて感じました。黒沢監督、楽しい時間をありがとうございました。(B.B.)