企画展<バレエ映画の世界>のイベント報告
12月に開幕した企画展「バレエ映画の世界―バレエ発祥の地・鎌倉―」は、3月14日に終了いたしました。本展は、鎌倉・七里ガ浜に日本ではじめてバレエ教室を開き、日本にバレエを広めたエリアナ・パヴロバの没後80年を記念して企画されました。約3か月間の展覧会の会期を通して、バレエ映画のポスターやスチル写真を展示したほか、関連する映画10作品の上映やトークイベントを開催し、バレエ映画の魅力をご紹介しました。
1月13日は、法政大学名誉教授で鎌倉在住の鈴木晶さんにお越しいただき、「『赤い靴』からはじまるバレエ映画の魅力」と題して、〈バレエ〉と〈映画〉の多様な関わりについてお話しいただきました。企画展が始まって最初の関連上映とトークイベントが、映画『赤い靴』の上映と鈴木先生のトークイベントだったのですが、1月7日に発出された国の緊急事態宣言を受け、座席数の50%にあたる25席での開催となりました。こうした状況の中、この日を楽しみにお集まりいただいたお客様と、感染予防対策で様々な制限がある中、登壇してくださった鈴木先生に、感謝を申し上げます。
精神分析学と身体表現論が専門の鈴木先生は、長年にわたりバレエ史研究に従事され、ハリウッド映画などに登場するダンサーたちに関しても詳しく調査されています。今回展示した資料の詳細を確認する上で、「バレエ誕生」「バレリーナの肖像」「踊る世紀」など鈴木先生の著作が大変参考になりました。トークイベントでは、日本で最初に大ヒットしたバレエ映画『白鳥の死』(1937年)や『赤い靴』(1948年)から、『リトル・ダンサー』(2000年)、『ブラック・スワン』(2010年)、最新のNetflixドラマ『タイニー・プリティ・シングス』(2020年)まで、内容は広範囲に及び、本展ではあまり詳しくご紹介できなかった近年のバレエ映画についても詳しく解説してくださいました。
〈バレエ〉と〈映画〉の様々な繋がりがよく分かり、古今東西のバレエ映画の歴史を紐解く大変貴重な機会となりました。
2月23日には跡見学園女子大学准教授の川島京子さんをゲストにお招きし、「没後80年 エリアナ・パヴロバと日本バレエ発祥の地・鎌倉」というテーマでトークイベントを開催しました。鎌倉・腰越ご出身の川島さんは、幼少時代に地元のバレエ教室に通っていたそうです。そのバレエ教室の先生が、日本バレエの母エリアナ・パヴロバの妹ナデジダ・パヴロバの弟子で、幼い頃からパヴロバ姉妹の話を度々聞いていたことから、エリアナ・パヴロバ研究をはじめました。本展でも、川島京子先生の著書「日本バレエの母エリアナ・パヴロバ」を参考にさせていただきました。
トークイベントでは、ロシア革命から逃れて来日したエリアナ・パヴロバの来歴や、日本初のバレエ教室を設立し日本にバレエを根付かせたこと、第二次世界大戦中に中国の日本軍慰問先で亡くなられたこと、エリアナ亡き後は妹ナデジダが長年にわたって鎌倉・七里ガ浜の地でバレエ教室を続け、精力的なバレエ指導を行ったことなどを詳しくお話しいただきました。
また、企画展では詳しく取り上げることができなかった『勝利者』(1957年)や『裸女の愁い』(1950年)など日本のバレエ映画についても、いくつかご紹介くださいました。『裸女の愁い』では、エリアナのほぼ最後の弟子となる大滝愛子さんが主演されるなど、エリアナの弟子たちは日本のバレエ映画においても欠かせない存在となりました。これらのバレエ映画は、1950年代の『赤い靴』公開をきっかけに日本で起こったバレエブームを発端に作られました。その他、安藤絋平監督のナデジダ主演短編作品『ワルツ』(1975年)などの貴重な映像も見せていただきました。70歳頃のナデジダが七里ガ浜のパヴロバ・バレエスクールで踊る様子は、現実と夢の中を行き来するようで、とても美しく幻想的でした。
トークイベントの最後には、ナデジダ・パヴロバからバレエを教わった岩井素子さんにもご登壇いただき、生前のナデジダさんの様子を伺うことができました。
エリアナ没後80年という節目の年に、パヴロバ姉妹の功績をバレエ映画と共にご紹介できましたこと、とても喜ばしく思います。ご来館いただきました皆様、ありがとうございました。(B.B. / TK)