鎌倉シネサロン『発酵する民』

「鎌倉と映画」をテーマに、鎌倉にお住いの皆さんにご参加いただき地域を盛り上げていくイベント<鎌倉シネサロン>、今年度は鎌倉在住の映像作家・平野隆章監督が7年間の取材をもとに制作された『発酵する民』を上映しました。11月3日(火・祝)、7日(土)、8日(日)の3日間全6回の上映、全て満員という大盛況となりました。

この作品が作られるきっかけは、東日本大震災にあったそうです。震災後、平野監督は『東電テレビ会議49時間の記録』(2013年/制作OurPlanet-TV/科学ジャーナリスト大賞受賞)の編集など、報道ドキュメントに携わり、継続的に福島を取材していました。その中で、被災された方に言われた「原発事故がいつの間にか福島のことだけにされている」という言葉が胸に響き、東北以外の人々にとっての震災に目を向けるようになります。そこで出会ったのが鎌倉の女性たちでした。東日本大震災直後、彼女たちは放射能に関する様々な情報が錯綜する不安な状況下の鎌倉で反原発パレードを行っていました。彼女たちがどのように感じ、行動を起こしたのか、当時の不安な心境が映画の中で語られています。彼女らの活動は、震災から10年が経とうとしている今も、イマジン盆踊り部として存続しています。世代や考え方の違いを超えて、人と人とが繋がることができる盆踊りは、震災以後の新しい生活を模索する上で最適なものだったのです。人の生活の場である地域から、世界に向けて平和の輪が広がっていくことを信じて、飲食店オーナー、歌手、髪結い師、デザイナー、大工、主婦、カメラマン、看護師など様々なバックグラウンドを持つ人々が集っています。

東日本大震災では、<津波=自然>の力によって多くの尊い命が失われ、残された人の心は引き裂かれました。津波の被害に加え、原発事故による身体的・心理的な影響は測り知れないものとなりました。震災後の日本人にとって、津波や原発事故をおこした自然は、脅威そのものとなってしまったのです。一方で、自然は私たちの生活に欠かすことのできない要素でもあります。人間は元来、自然から恵みを得、自然と共に生きてきました。映画に出てくる<地球暦>は太陽系の惑星たちの動きを1兆分の1の縮尺で表した円形の暦で、時間を空間化できる「時空間地図」です。太陽系の中で、今自分がどこにいるのか確かめることができます。<発酵>もまた、漬物・日本酒・パン…私たちの生活を豊かにしてくれる自然のはたらきです。映画では、イマジン盆踊り部の皆さんを中心に、脅威となってしまった自然との共存を試み、震災後の生活のあり方を模索する様子が描かれています。

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映画の上映後は、毎回、平野監督による舞台挨拶も行われ、映画が生まれたきっかけについて、詳しくお話しいただきました。初日は、出演者の瀬能笛里子さん、山口愛さん、やまもとゆうすけさんにご壇上いただき、撮影のエピソードや映画に対する想いも伺うことができました。

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今回の上映会に併せて『発酵する民』オリジナル手ぬぐいを枚数限定で販売しました。この手ぬぐいは、主演の瀬能笛里子さんが経営する、てぬぐいカフェ一花屋で作られたものです。版画家RYOCKさんによるイマジン盆踊り部の皆さんを描いたイラストもとってもかわいらしく、3日間の上映会中に完売してしまいました。

『発酵する民』は、東日本大震災で刻まれた大きな心の傷跡を埋め、安心して生活が送れる日々を手に入れようと模索する鎌倉に住む人たちの物語です。もうすぐ震災から10年が経とうとしている今、この映画を鎌倉という地で上映できたことには大きな意味があるように思います。感染症の影響でライフスタイルが激変している今、『発酵する民』は新しい生活を導き出すヒントにもなることでしょう。

主演の瀬能笛里子さんのお父さまは、現在開催中の企画展「バレエ映画の世界」のポスターの絵を描いていただいた鎌倉在住の作家ささめやゆきさんです。ポスターの原画をはじめ、今回の展覧会に合わせて描いていただいたバレエに関する絵も、館内で展示しています。とても素敵な作品ばかりですので、是非ご来場ください。

(TK)

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