怒涛のトークイベント月間終了!

現在開催中の特別展「生誕100年 激動の時代を生きた二人の女優―原節子と山口淑子」。
10月は、二人の女優にとって大きな転機となり、また当館の由来にもなっている「川喜多長政・かしこ夫妻」とも関わりの深い作品の上映に合わせて、3つのトークイベントを開催し、大いに盛り上がった1ヵ月となりました。

上映したのは、山口淑子の「李香蘭」時代の貴重作『萬世流芳』と『私の鶯』、そして原節子がヒロインに抜擢された日独合作映画『新しき土』です。

満州映画協会(満映)から、“日本語が堪能な中国人女優”の触れ込みでデビューした李香蘭は、長谷川一夫と共演した“大陸三部作”をはじめ、満映が日本の映画会社と提携した国策映画に数多く出演しましたが、それらの映画は中国人観客には必ずしも親しまれていませんでした。
そんな中、上海に設立され同じく日本の国策映画会社であった「中華電影」を中心に製作された『萬世流芳』は、責任者を務めた川喜多長政の方針のもと、阿片戦争を題材に中国人観客向けに作られた娯楽映画として中国全土で大ヒットし、飴売り娘を演じた李香蘭の知名度も一気に高まったのです。

このように李香蘭時代の作品の中でも、様々な意味で異色作と言える『萬世流芳』の上映とともに、中国映画に詳しい刈間文俊先生にご登壇いただき、川喜多長政が陣頭指揮を執った中華電影の作品に込められた意味を、研究者の立場から分析・解説していただきました。
中華電影は、責任者こそ日本人である川喜多が務めましたが、現場の制作スタッフは中国人であった点に大きな特徴があります。日本に支配され、日本の国策に寄与する映画を作らなければならない状況の中で、いかに中国人制作者たちが自らの本心を作品に込め、川喜多がそれを理解しつつも見守り、時に自分が盾になって守ろうとしたかを詳細にお話しいただいたことで、戦時下の映画製作の困難さと、だからこそ細部を見つめる必要性を実感したトークとなりました。

一方『私の鶯』は、岩崎昶製作・島津保次郎監督のもと多額の予算と長年の歳月をかけて完成されたにも関わらず、完成時には「戦意高揚映画一色の中、ロシア人キャストが数多く出演し、ロシアの敵性音楽をふんだんに盛り込んだメロドラマ」として公開禁止されたまま、“幻の映画”となってしまった作品です。それが1980年代に入ってフィルムが発見され、完全版ではないものの日本では初めて映画を見られるようになりました。
左翼的な立場にあった岩崎と、松竹のホームドラマを確立した島津の名前からも推察できるように、本作もまた日本の映画制作者たちが必死に当時の国策に抗って作り上げた作品でした。だからこそ当時は禁止されてしまったわけですが、声楽を学び歌手としても活躍していた李香蘭の才能が遺憾なく発揮され、日本人の実の父親とロシア人の育ての父親に挟まれた娘というメロドラマが堪能できる、今見ても非常に楽しめる作品です。

今回はそんな本作の貴重な上映と合わせて、晩年の山口淑子さんと親交を結び、山口さんをよく知る文筆家の高橋政陽さんにご登壇いただきました。高橋さんには、『私の鶯』の製作の背景から、再発見される過程を詳しく解説していただいたと同時に、山口さんと原節子さんの交流についても、近くにいた者でなければわからないエピソードを交えながらお話しいただきました。

2日連続となった山口淑子さんのイベントから2週間、今度は原節子さんに関するトークを開催しました。
原節子さんは、女優デビューからまだ間もない1936年、当時日本がドイツとの間で進めていた合作映画『新しき土』のドイツ人監督、アーノルド・ファンクに撮影所で偶然に見初められ、ヒロインに抜擢されたのをきっかけに“国際派女優”として一躍スターの仲間入りを果たしました。その『新しき土』の日本側の製作者として、本作を積極的に推し進めたのが川喜多長政であり、映画の完成後には、原は川喜多夫妻と義兄の映画監督・熊谷久虎とともに、ドイツを含む欧米への4ヵ月にわたる宣伝旅行に出かけるという関わりがあったのです。

当時の同盟相手とはいえ、日本がナチスドイツと強く関わっていたことを見せつけ、映画としても日本的風景の美しさを前面に押し出し、日本の国力やその精神性を謳いあげた本作は、政治的な思惑が絡み合ったいわくつきの映画ではありますが、原節子にとっても当館にとっても非常に重要な作品です。

今回は、2016年に「原節子の真実」で新潮ドキュメント賞を受賞し、今年「女帝・小池百合子」で一躍時の人となったノンフィクション作家の石井妙子さんにご登壇いただき、『新しき土』の製作過程を綿密にお話しいただきました。石井さんは同書の中でも『新しき土』について詳細に調べており、川喜多夫妻が戦後『新しき土』を封印していたことにも触れながら、同作が映画の枠組みを超えて日本の重要な歴史の中に位置づけられることや、その大きな歴史の波に原節子が存在したことがよくわかる機会となりました。また『新しき土』の編集助手を務め、石井妙子さんとの共著「満映とわたし」も発表している岸富美子さんについても触れていただき、生誕100年を迎える原節子・山口淑子・岸富美子の3人が交差し合う運命を感じることができました。

当館でトークイベントを開催するのは、なんと8ヵ月ぶり。新型コロナウイルスの影響により館全体が休館して以来、まず展示を再開し、座席の間隔を空けて映画上映を再開してきましたが、9月半ばの政府方針を受けて10月半ばより全席を開放、そしてほとんど元の状態に戻ったタイミングで一連のトークイベントを迎えられたのは本当に嬉しいことでした。
トークイベントの再開を決めたものの、定員半減での実施を覚悟はしていましたが、最前列を空ける以外はお席を埋められたので、多くのお客様にご参加いただくことができました。皆さまの熱気溢れる会場を久しぶりに目の当たりにし、素敵な光景だなぁと実感した次第です。
とは言え、感染予防対策ももちろん怠ってはおりません!ご登壇時のアクリル板の設置、常時の換気、マスク着用のお願い等に加え、10月には劇場内の抗ウイルス・抗菌コーティングの施工を実施しました。現在の全席開放の措置はとりあえず11月末までなので、12月以降どうなるかはまだ見通しが立っていませんが、最大限の注意を払って上映を行っていきますので、今後も皆さまのご来館をお待ちしております。(胡桃)

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