三船敏郎さんの血を受け継ぐお二人が鎌倉に!

雨足強まる連休初日、特別展「世界のクロサワとミフネ」開催中の当館では、三船敏郎さんのご長男、史郎さんとお孫さんの力也さんをお迎えしてのトークイベントを開催しました。

写真だけ拝見すると、三船敏郎さんのちょっといかつくて男らしいかっこ良さを受け継がれているお二人だなぁとは思っていましたが、実物はさらに物腰の柔らかさがプラスされていて、これじゃあ会った人は誰でもときめいてしまうに違いない…とひそかに私もときめいてしまいました。

三船史郎さんは、淡々と真面目に、誠実にお父様の思い出を語られながらも、思わず笑いを誘ってしまう瞬間が多々あり、とてもお話の上手な方でした。そして、お話の中に出てくる名前がビッグ・ネームばかりで、すごい環境で育ったんだなぁとつくづく思いました。
東宝の若手俳優だった頃、敏郎さんは黒澤作品でも数多く共演する志村喬さんの家に下宿しており、その後もずっと志村夫妻と実の親子のような関係を築いていたこと、結婚後も近所の風呂なしアパートに暮らしていたため、お風呂が沸くと志村夫人が「お風呂沸いたわよ」と大声で呼んでくれていたこと、史郎さんはなんと、あの志村喬さんご夫妻を「志村のじいじとばあば」と呼んでいたんだそうです。
またお父さんに連れられてヴェネチア国際映画祭に行ったときは、昼間は弟と二人でホテルでお留守番、お金をもらって近所のチャイニーズ・レストランでラーメンをすすった話などもしてくださいました。
メキシコ映画の『価値ある男』に出演した際には、メキシコ人役だったこともあってスペイン語の台詞の習得が大変で、半年間自宅で留学生に下宿してもらい、家のあちこちに台詞を書いたメモを貼って、一生懸命覚えていた姿が忘れられないというエピソードもありました。
黒澤監督の娘さんである和子さんの話題が出た際は、史郎さんの弟さんと和子さんが同い年だったこともあって昔から仲良くしていたんだけれども、『雨あがる』で史郎さんが出演、和子さんが衣裳を担当した時には「和子ちゃんは顔がお父さんそっくりだから、近づいてくるたびに緊張してしまった」と、笑わせてくれました。

一方力也さんは、9歳でおじいさんを亡くされているので、記憶の中の敏郎さんは無口な普通のおじいちゃんだそうですが、やはり映画界に入り、俳優なども経験された後現在はプロデューサーとして活躍されています。下記にあります三船敏郎さんのドキュメンタリーの上映で世界各地の映画祭を回ったり、この秋には敏郎さんのハリウッド殿堂入りのセレモニーに参加されるということで、まだ20代ながら踏んでいる場数がすごすぎる…30代に入った自分の人生経験を思って溜息が出てしまいます。

三船敏郎さんの偉業とその人生に迫った初めての長篇ドキュメンタリー映画『ミフネ・ザ・ラスト・サムライ』は、敏郎さんと大変ゆかりの深いヴェネチア国際映画祭で昨年お披露目され、ちょうど日本でも京都映画祭を皮切りに上映の展開が期待される、今大きな注目を集めている作品です。当館の情報資料室にあるモニターでは、予告編をご覧いただくことができますが、短いながらもスピーディーでスタイリッシュな作りでとてもかっこいいです。国内外の大物たちがインタビューに登場するほか、ナレーションを務めるのはなんとキアヌ・リーヴス!三船さんがいかに世界中で尊敬されているかがわかります。映画館で見られる日も近いはず…皆さん、どうぞお楽しみに!

三船敏郎という俳優が、いかに日本映画界において稀有な存在だったかは、今の時代になってより鮮明になっている気がします。「サムライ」は日本の代名詞と言ってもいい言葉ですが、実際にその名にふさわしい人がどれだけいるでしょうか。
本企画展で、是非三船敏郎さんの魅力を改めて知っていただけますと幸いです。(胡桃)