イベントに良い季節なもので…

雨が降ったり、蒸し暑い日もありますが、春から初夏にかけての今の季節は、清々しくて気持ちの良い時期ですね。
ということは催し物にも最適の時期ということで、今週記念館が開催&参加したイベントを3つ報告します。

22日(日) 鎌人いち場にてワークショップブースを出店!
鎌倉を愛する人たちによるコミュニティーマーケットとして、由比ヶ浜の海を臨む公園にて開催される鎌人いち場。記念館は3年目の参加です。私たちスタッフは普段暗い映画館の中にばかりいるので、太陽の下で一日過ごすのは場違いな感がどうしても否めませんが、たくさんの家族連れで賑わう場所で、楽しく絵を描きながら映画のしくみを知ってもらえる良い機会となりました。

お腹を満たす飲食エリア「食べる場」やフリーマーケットが並ぶ「売る場」はこういったイベントには欠かせないものですが、鎌人いち場の特徴として、「交わる場」という、伝統文化から健康、ものづくり、社会的な分野まで、自分たちの活動を紹介するエリアが設けられることが挙げられます。私たちも記念館の紹介や夏の子ども向けイベントの告知を兼ねて、交わる場の中のワークショップエリアに出店しました。来場されるお客様に向けての出店であることはもちろんのこと、こうして一堂に会してみると団体同士の交流の機会にもなるので、今後の活動に生かせる貴重な場となりました。

お昼ごはんを買いに行ったり、交代で他のブースを回ってみたりと、それなりに楽しむことはできましたが、なんといっても仕事なのでビールを片手にくつろげないのが残念!お休みの日にプライベートで来ていれば、海を見ながらぼーっとしたり、掘り出し物探しにいそしんだり、マッサージで身体を癒したりできるのになぁ…(後片付けもしなくていいし!)

それでもやっぱり、鎌倉という街の豊かさと、その街で活動できることの幸せを噛み締めた一日だったのでした。

25日(水) バリアフリー上映会『麦秋』を開催!
3月のバリアフリー上映会『あん』から2ヶ月、開催中の特別展「鎌倉の映画人 映画女優 原節子」に合わせて、小津安二郎監督、原節子主演の名作『麦秋』でバリアフリー上映会を実施しました。これまで、バリアフリー上映と言うと、どうしても字幕素材が既にある新しい作品に限られていましたが、普段は見られない昔の映画を是非バリアフリーで見てみたい、という声が多く寄せられたこともあり、今回は要約筆記のボランティア活動をされている団体「あ・うん」さんに早くから日本語字幕制作をお願いして準備をすることができました。
元々人気の作品ではありますが、当館のバリアフリー上映会もお陰様で少しずつ認知されてゆき、早々と完売、またしてもお断りするお客様が出てしまったことは心苦しい限りですが、次回の機会を是非お楽しみにお待ちください。

日本映画の日本語字幕なんて、台詞をそのまま文字にすればいいだけとお考えになる方もいるかもしれません。
しかしそうではないのです。まず、映画において音は台詞だけではありません。物語の中で発せられる物音、音楽、映画の背景で使われるBGM、など「映画の音」は様々です。そしてそれらの音のうち、どこまでの情報を文字にするか、必要な情報、なくても良い情報の選別も必要です。台詞だってただ文字にすればいいのではありません。言い方やニュアンスをどこまで伝えられるか、難聴者の方に作品の魅力を字幕からどこまで感じ取っていただけるか、すべては字幕制作者の方々にかかっているのです。
さらに、あ・うんの皆様が最もこだわっていたのが字幕を出す「タイミング」。実際にその台詞が発せられるタイミングにできるだけ近づけて字幕を出すこと、それによって会話のテンポが伝わり、場面全体の雰囲気がわかり、さらには映画全体の魅力が理解できることにもなるわけです。
そして、日本映画の日本語字幕は、難聴者の方だけでなく、少し耳の遠くなったお年寄りや昔の言葉に慣れない若者にとっても大変有難い情報となりえるのです。ありがたや、日本映画の日本語字幕!

字幕にばかり話がいってしまいましたが、視覚障がい者の方への音声ガイドはいつもご協力いただいているバリアフリー上映推進団体であるシティ・ライツに今回もお願いしました。こちらのガイドも利用者の方々から「素晴らしかった!」のご感想をいただき、抜群の安定感であったことをご報告いたします。

上映後には、皆さんで映画の感想を語り合う「映画談話室」も実施しました。司会に立った不肖わたくしが、30代前半、独身、女性という立場にあることもあって、結婚についての様々な意見が飛び交う興味深い場となりました。まあ、結婚なんて今も昔も決して簡単ではないのですよね。終わった後には、何人かの方から「私の娘だっておんなじよ!」とか「私も結婚してないから!」と励ましのお言葉をいただき、大変心強かったです。

バリアフリー1

27日(金) 黒田博さんを迎えてのトークイベント付き特別上映を開催!
4月の貴田庄さんに続き、原節子展の関連イベントとして、『紀子 小津安二郎の戦後』の著者である黒田博さんをゲストにお迎えして、『晩春』の上映の後にトークイベントを行いました。


原節子さんが同じ「紀子」という役名を演じたために「紀子三部作」とも呼ばれる『晩春』『麦秋』『東京物語』。しかし正面から「紀子三部作」と位置づけて論じられることのなかったなか、タイトルに「紀子」をもってきた黒田さんの著書は、出版時からすでにインパクトたっぷりでしたが、今回は特に、映画の仕事を生業にはされていなかった方の強みというか、ならではの新しさを感じるトークとなりました。


『晩春』については、色んな人が色んなことを書いていますが、黒田さんは、笠智衆演じる父・周吉と原節子演じる娘・紀子が「杜若」の能舞台を観劇する場面に注目し、「杜若」と『晩春』の物語をリンクさせて、不在の母親の存在から終盤京都の旅館で原節子が着ている浴衣の柄にまで結びつけて論じています。それは映画だけを見ていては、映画の知識だけではわかりえないことです。
「紀子三部作」や「杜若」など、映画研究者が目を逸らしがちなテーマに切り込む独自性と、小津監督研究の大家である田中眞澄氏に師事した経歴からもわかるように、十分な資料調査に裏打ちされたアプローチによって、説得力のある論が成立しているところが黒田さんの最大の魅力であり、トークではそれが遺憾なく発揮されていました。
鎌倉にご在住ということで、お知り合いの方の姿も散見され、終始あたたかいムードに包まれた午後でした。

これから鎌倉はあじさいの季節を迎えます。梅雨なのにお客様に来ていただける街って素敵!
原節子展も残すところ1ヶ月強となりました。まだまだご来館をお待ちしております。(胡桃)