笠智衆さんの面影をたたえるお二人のトーク~笠鉄三さん、笠兼三さん~

[特別展]「鎌倉の映画人 監督 小津安二郎と俳優 笠智衆」が始まってちょうど3週間。本企画での最初のイベントが10月9日開催されました。なんと、笠智衆さんのご次男である鉄三さんと、鉄三さんのご次男で俳優としても活躍されている笠兼三さんにご登壇いただくという大変貴重なトークです。今回は『父ありき』の上映と併せてのトークイベントということで、お二人には「家庭での父(祖父)、笠智衆」について語っていただきました。俳優としての笠智衆さんについて語られることはあっても、家庭での笠さんの素顔について知る機会はまったくないと言ってもよいのではないでしょうか。当日は早々にチケットが完売し、皆様の期待の高さが伺えます。

一緒にご来館されたお二人を見て、私は思わず、あぁ笠智衆さんだと思いました。すらっとして背がピンと伸びている笠さんのイメージをまさにそのまま受け継いだお二人の姿だったのです。手足が長く、舞台映えする立ち姿の兼三さん、そして少し足は不自由ながらきりっと精悍な雰囲気をたたえた鉄三さん、そこには間違いなく笠智衆さんの面影がありました。(実際鉄三さんのお話の中にも、背がまっすぐだったというお父様の話が出てきました)

鉄三さんは静かな物腰ながら、ユーモラスで味わい深い語り口調、時に歯に衣着せぬ言い方でお客様を何度も爆笑に導き、どちらかというと話下手だったであろうお父様とは違った一面を見せてくださいました。
お父様と遊んだりしたのか、という質問に対しては「子どもには子どもの事情が色々とありまして、学校から帰るとすぐに遊びに出るものですから、親に付き合ってる暇はございませんでした」
兼三さんが毎日ホットミルクを作ってあげていたという話題で牛乳は好きだったのかという質問には、「いいえ大っ嫌いでした。ただ従順な性格なものですから、晩年になって体にいいよと言われて毎日1杯飲んでました」
「鶴田浩二、佐田啓二、上原謙ら眉目秀麗な役者と比べると月とすっぽんです」「いや、お父様はルドルフ・ヴァレンティノに似てると言われていたそうですが」「それは自称でございます」
笠家では女性陣はお酒も強く、鉄三さん曰く「うわばみクラス」だったのに対し、男性陣は飲む・打つ・買うがからきしダメで、奥様が家の主導権を握っていたそう。「生活能力のない大部屋俳優と母はなぜ結婚したのかいまだにわかりません」なんてことまで。でもそんな夫婦こそがうまくいくんでしょうね。
鉄三さんのお話を聞いていると、これまで抱いていた笠智衆さんのイメージが覆されるのではなく、やっぱり思っていた通りの人だったんだ!と嬉しくなり、笠さんの人としての真面目さ、実直さを再確認することができました。

兼三さんにとっては、寡黙で仕事が忙しいおじいさんとの思い出話を期待されても困っちゃうなぁというご様子もありましたが、同じ職業に従事する立場として、そして現在公開中の出演作『日本のいちばん長い日』では、50年近く前の岡本喜八監督の同作品に笠智衆さんが出演されたことへの思いなど、気取らず素直に話してくださったのが印象的でした。
また、時々「お父さんどうだったの?」と鉄三さんに問いかける姿が何とも微笑ましく、飾らないお二人の関係が垣間見えた気がしました。

他にも色々なお話をお聞きしたのでここには書ききれませんが、最後に貴重なエピソードをひとつ。
松竹の撮影所があった大船の小学校では、学級ごとエキストラとして映画に出演することが何度かあったそうです。
『東京物語』の最後、香川京子が働く小学校の場面、子どもたちが廊下を歩くシーンを撮影するときには、鉄三さんが3番目に歩くよう指示されて出演したとのこと!恐らく顔が見れるかどうか、くらいかもしれませんが、是非12月に当館で『東京物語』を上映する際にご確認くださいませ。(胡桃)