2019年秋の特集企画をご紹介

 鎌倉市川喜多映画記念館では、川喜多長政、かしこ夫妻が理念とした「映画が世界を結ぶ」をテーマに、これまで様々な企画を開催してきました。今回は、昨年の秋に開催した「かまくら世界映画週間」と「鎌倉・萩・上田・足利〜映画がつなぐ姉妹都市〜」をご紹介します。

 「かまくら世界映画週間」は、2015年から始まった特集企画で、毎年、テーマとなる国を取り上げ、関連する映画作品の上映と市内で活動されている方によるトークイベントを開催してきました。5回目となる昨年は、歴史と伝統の国、イギリスを取り上げました。

 イギリスと川喜多夫妻には深い繫がりがあります。1950年、川喜多長政の公職追放が解除され、翌年には戦後最初の渡欧が実現しました。アメリカ、フランスを経てイギリス・ロンドンに赴いた長政は、映画プロデューサー、アレグザンダー・コルダに会い、ロンドン・フィルムとの最終契約を固めました。そして、『第三の男』『ホフマン物語』といった映画史に残る名作群が東和によって公開され、戦後のイギリス映画黄金期を日本に届けました。1955年には川喜多夫妻の長女、和子が、鎌倉の御成中学校を卒業後、イギリスに留学します。この時、かしこも共にロンドンに滞在し、イギリスやフランスのシネマテークに通い、海外の映画人との交流を深めたことが、映画保存活動や国際映画祭の審査員といった戦後の重要な仕事のきっかけとなりました。

 「かまくら世界映画週間〈イギリス篇〉」では、美術、文学の視点で4作品を選びました。イギリスを代表する画家、ターナーの半生を描いた『ターナー、光に愛を求めて』、ターナーの傑作「戦艦テメレール号」を所蔵するイギリス初の国立美術館、ナショナル・ギャラリーを撮影した『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』、ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの同名小説の映画化『日の名残り』、そして、世界的な文学賞である英国ブッカー賞受賞作の映画化『マイ・ブックショップ』です。御客様には4作品、すべてご覧になられた方もいて、大変な盛況でした。

 アフタートークでは、関東学院大学でイギリス文学の研究をされている萩原美津先生にご登壇いただき、原作と映画の違いや、カントリーハウスの魅力、歴史的背景といった、映画に描かれた世界を様々な視点でお話しいただきました。当館とスタンプラリーで連携している神奈川県立近代美術館の普及課長でいらっしゃる籾山昌夫さんには、ナショナル・ギャラリーの活動について具体的な解説をしていただきました。また、神奈川県立近代美術館の多彩な教育普及プログラムや保存修復についてもご紹介いただきました。ゲストのお二人からは、専門分野に関する深い知識をお話しただき、より深く映画を楽しむことができました。今回の4作品とアフタートークを通して、イギリスの魅力は伝統と歴史に育まれた深い教養、そして、その端正な美しさに醍醐味があるのだと感じました。   

 昨年、2019年は鎌倉市制80周年の記念すべき年となりました。また、山口県萩市と長野県上田市とは姉妹都市提携40周年にあたります。11月3日の市制記念日にあわせて、11月4日から「鎌倉・萩・上田・足利〜映画がつなぐ姉妹都市」を開催しました。

 山口県萩市といえば、明治維新を牽引した長州藩、吉田松陰や高杉晋作といった幕末の偉人たちのゆかりの地です。その高杉晋作を若き石原裕次郎が演じたのが、鬼才・川島雄三監督の『幕末太陽伝』です。フランキー堺の軽妙洒脱な居残り佐平次が活躍する傑作喜劇であり、萩市関連作品として上映しました。 

 長野県上田市は大河ドラマ『真田丸』でも注目された真田幸村(信繁)ゆかりの地です。塩田平は信州の鎌倉とも称されており、鎌倉時代から鎌倉ともゆかりの深い土地です。この信州上田を舞台に、名優・柳澤愼一と高橋長英が共演した映画『兄消える』(西川信廣監督)を上映しました。

 鎌倉市の関連作品としては、鎌倉文士、高見順の小説を映画化した『胸より胸に』(家城巳代治監督)を上映しました。当時、前田公爵家別邸であった現在の鎌倉文学館や稲村ヶ崎周辺、北鎌倉駅が舞台の一つとなり、記録映像としても貴重な作品です。

 栃木県足利市は、清和源氏の流れをくむ足利氏のゆかりの地であり、古くから鎌倉市と縁がある市です。足利市は「映像のまち構想」に取り組み、ロケ地誘致を積極的に推進しています。今回は、あしかがまちドラマ製作委員会のご協力を得て、足利市の企業が協力して制作されたオムニバスドラマ「あしかがまちドラマ」を情報資料室にて上映しました。 

 『兄消える』上映後には、主演の柳澤愼一さん、ヒロインで信州上田観光大使の土屋貴子さんによるトークを開催し、また、本作プロデューサーの新田博邦さん、鎌倉市共創計画部文化人権課担当課長の石川雅之さんにもご登壇いただきました。昨年10月の台風19号では、千曲川の増水による鉄橋の崩落をはじめ、上田市も大きな被害を受けました。本作は上田市民によって支えられた作品であり、市民にとって上田市の魅力を伝える大切な作品であること、そして、本作を上映することが市民にとっても大きな力になっていることをお話しいただきました。

 『胸より胸に』上映後には、足利市総合政策部映像のまち推進課長の安西健さんに、「映像のまち構想」から始まった足利市の映画文化についてお話しいただき、鎌倉文学館副館長の小田島一弘さんには、前田公爵家別邸の当時の貴重な室内写真をもとに、映画ではどこまでが実際の室内でどこからセットなのかなど思案しながらの興味深いトークとなりました。

 一日も早く新型コロナウイルスによる感染拡大が収束することを願いつつ、今年の秋も皆様にお楽しみいただける企画を準備してまいりますので、どうかご期待ください。(文)