<トークイベント報告>洋画宣伝マンたちによる裏話満載爆笑トーク!

残暑厳しい鎌倉では8月22日(土)、「戸田奈津子が見てきたハリウッド展」の関連イベントとして、かつて洋画配給の世界で活躍された宣伝マンたちによるトークイベント「スクリーンの裏側は面白い~いま打ち明ける、洋画宣伝の世界~」を開催しました。

洋・邦問わず大作映画が数多く製作されていた時期に、熾烈を極めた宣伝業界の裏話満載トークということで、好きな人にはたまらないけれど、一般のお客様の反応はどうだろう、とちょっぴり心配もありましたが、登壇される皆さんはとても楽しみにしてくださり、事前のやりとりの段階から様々なアイディアが飛び交っていました。

そして当日、観客席には戸田奈津子さんのお姿も。
戸田さんには企画展期間中、トークイベントに2回ご登壇いただき、スピード感のある素晴らしい話術を堪能させていただいたのですが、2回目のときに今回の企画をお伝えしたところ、「私、来るわ」と鶴の一声が飛び出し、そのお陰でチケットも一気に売れ行きが伸びたという経緯がありました。

今回のゲストの構成を簡単に説明しますと、まず、司会役には元キネマ旬報編集長で沢山の書籍の編纂に関わり、映画会社「太秦」を設立された植草信和さんが、冷静かつ的確な進行でエピソードを漏らすことなく拾ってくださいました。
そんな素晴らしい進行のもとに集結したのが、かつてインディペンデント系の会社同士として火花を散らし合った、東宝東和とヘラルドから、竹内康治さん(東和)と和田泰弘さん、高橋渡さん(ヘラルド)という面子です。

東和VSヘラルドの宣伝合戦が中心ということで、そんな両社の戦いの目玉となった事件からトークは始まりました。
東和が得意としていたヨーロッパ映画の人気が70年代に入って徐々に落ち始めた時期に、東和が社運をかけて配給権を買い、多額の費用を投じて1年がかりの宣伝戦略に打って出た、1976年のお正月映画『キング・コング』に対し、ヘラルドはわざと自社配給の『カサンドラ・クロス』を『キング・コング』と同日公開にもってきて、相乗効果を狙う作戦に出たそうな。
封切日、有楽座前で景気良くペッタンペッタン餅つきをしている東和キング・コング組の元に、ヘラルドのカサンドラ部隊が防疫服とモデルガンで殴りこみ、ポスターの写真を撮影しようと脚立に乗っていた竹内さんが驚いて思わず落ちそうになったところを見事マスコミに撮られてしまい、翌日の新聞には「『キング・コング』落ちる!」と書かれて、社内のムードが一気に悪化、宣伝部長が入院までしてしまったのだそうです。

この1エピソードを書いただけでも、当時の映画業界のハチャメチャぶりとテンションの高さがおわかりいただけるでしょう。
こんなお話が1時間半続いたのですから、ここでは到底書ききれません!(これは怠惰ではなく、あの面白さを文章で再現するには能力の限界があるのです。どうかご容赦ください。)

ということで、トークの雰囲気をどれだけお伝えできるか自信はありませんが、いくつかだけでもエピソードをご紹介しましょう。

冒頭の『キング・コング』事件から遡ること2年、ヘラルド配給で『エマニエル夫人』が大ヒットします。半裸のエマニエル夫人が椅子に座って足を組んでいるポスターを思い出す方も多いのではないでしょうか。この作品は「女性が見られるソフト・ポルノ」の位置づけで、ヘラルド社内で「煽情的なコピーをソフトにする才能がある!」と太鼓判を押された高橋さんが「無垢の微笑みをその唇に浮かべて ああエマニエル 手に背徳の薔薇一輪」という素晴らしいコピーと「ファッショナブル・ポルノ」という名称を作り出したそうです。実際観客の大半は女性で、映画館内ではよく痴漢騒ぎもあったのだとか。この作品のヒットのおかげでヘラルドの試写室の椅子が豪華になり、「エマニエル椅子」と言われてその後の劇場の椅子仕様の先駆けになったということです。

東和の方では、ブルース・リーものの裏話をひとつ。実はブルース・リー映画が世界的にヒットする前、香港のプロデューサーだったレイモンド・チョウ氏が川喜多会長のもとに直接売り込みに来ていたんだそうです。当時東和はその売込みを蹴ってしまったのですが、その後アメリカを皮切りにブルース・リーブームが巻き起こり、東和は慌てて配給権を購入。ただその時点で権料は当初の10倍に膨れ上がっていたそうな。
香港繋がりで言うと、70~80年代に大ヒットした「Mr.Boo!」シリーズですが、1本目の『Mr.Boo!』はブルース・リー作品のおまけとして権利を買ったいわゆる「パッケージ買い」の作品で、2年ほどお蔵入りになっていたのを公開したものだったそうです。日本ではまるでシリーズのように扱われていますが、本来はマイケル・ホイ監督・主演作というだけで、作品同士にはなんの繋がりもないのだとか!原題もまったく違うそうですが、このシリーズ名は監督もとても気に入ってくれたということで、配給会社の工夫には舌を巻きます。

「Mr.Boo!」もそうですが、邦題のつけ方も話題になりました。
メジャーのように本国から自動的に作品が降りてくるのと異なり、インディペンデントの配給会社は、購入後も工夫に工夫を重ねて作品を売り込まなければなりません。「邦題には著作権がない」ので、当たった作品はどんどん真似をし合ったようで、似たようなタイトルが多かったりするのはだからか!と納得です。
また、各社ジンクスのようなものがあり、東和は、アリナミンやオロナミンのように「ん」のつく薬が多いというのを参考に、「ん」や「濁音」をタイトルに入れたり(『ランボー』などですね)、ヘラルドは10文字が良くないということで、『小さな恋のメロディー』を「メロディ」にしたところ、同様の表記が流行ったそうです。
今では浸透していますが、「詩」と書いて「うた」と読ませるのも、「かなしみ」を「哀しみ」と書くのも、映画から来ているんだとか。『007/危機一発』を「髪」ではなく「発」と表記したら、受験生が混乱してしまったなんて話もありましたヨ。

そして皆さん、ところどころで、前方に座っている戸田さんに向かって「あれはこうでしたっけ?」「戸田さんどうしたんでしたっけ?」と尋ねながら、戸田さんがそれに答えるなんて光景もチラチラありました。
特に、宣伝のためのスター来日時は、皆さんとっても戸田さんにお世話になったようです。『アマゾネス』の女優たちが記者会見で脱ぐか脱がないか事件でも、名犬ラッシーの調教師泥酔事件でも、いつでも戸田さんは臨機応変、素晴らしい通訳だったそうです。
個人的に私が面白かったのは、『エマニエル夫人』の余韻が残る中、シルビア・クリステルが来日した際は、想定外の暴動騒ぎになってしまい、ヘラルドの宣伝マンたちに向かって戸田さんが「どぉおすんのよ、あんたたち!」と怒ったというエピソードです。高橋さんの口真似も上手なので、なんとなくその情景が瞼に浮かぶような…。

途中、「映画って本当に文化なんだっけ?」という言葉が思わずポロリと漏れ、場内が笑いに包まれる一幕もありましたが、それこそが映画の魅力なのだと、誰もが心の中で再確認できたのではないでしょうか。

そんなこんなで怒涛の1時間半。植草進行役にきっちり締めていただき、楽しいトークは終わりました。
トークの後も、戸田さんを交えて皆さん話が終わらないこと終わらないこと!まるで久しぶりに集った同窓会のような雰囲気で、そして何より戸田さんが終始とても楽しそうだったのが忘れられません。
ゲストの皆さんも、「戸田さんに喜んでもらえて何よりだ」と口々に仰っていました。

戸田さんは第2弾、第3弾の企画にも大変乗り気だったということなので、第2弾、そのうちあるかも!?(胡桃)